3月25日、東京五輪の聖火リレーが福島県を出発した。聖火リレーは、大会の開催を国民に伝え、関心を呼び起こすことが大きな狙いとされる。しかし、国民の期待はいまだに低いままだ。
今月10、11日に朝日新聞社が実施した全国世論調査(電話)によると、東京五輪・パラリンピックについて「今年の夏に開催する」は28%、「再び延期する」が34%、「中止する」が35%であった。いずれも3月から横ばいだ。
先に言った通り、聖火リレーは「開催国全体にオリンピックを広め、きたるオリンピックへの関心と期待を呼び起こす」ために催される。しかし、3月から変わらない世論調査の結果を見るにつけ、「関心と期待」を呼び起こす役割はまだ果たせていないと痛感する。
一方、57年前の1964年東京五輪は国民の「関心と期待」に満ち溢れていた。64年7月27日の朝日新聞の記事「度を越した五輪ムード」には、東京五輪に向けて浮き足立った人々の珍事が記されている。
例えば、京都市のある商店街は、大売出しのセールの際、無許可で東京五輪のマーク入りの大型ワッペンを商店街に飾り付けた。「客寄せパンダ」ならぬ「客寄せ五輪」だ。また、佐賀県の子どもの間では、竹棒の先に火をつけて、走り回る「聖火遊び」が大流行。棒の火が飛んで農家5棟が全焼する事件も起こった。事態を重く受け止めた県教育委員会は、「聖火遊び」をやめさせるよう通達を出し、流行の「火消し」に注力した。
五輪にあやかって集客を狙う商魂たくましき商人。五輪に胸を躍らせ、はしゃぐ子どもたち。57年前の東京五輪は、このような高揚感があってこそ、盛り上がったのだろう。
本日4月15日で東京五輪開幕まで100日を切った。57年前とは様変わりである。五輪にあやかろうとする店も「五輪ごっこ」をする子どもも見当たらない。聖火リレーでさえ、冷ややかな目で眺める国民も多い。
東京2020聖火リレーのコンセプトは、「希望の道を、つなごう」。変異株が猛威を振るう中で、聖火が進む先は、本当に「希望の道」なのだろうか。「絶望の道」でした、では洒落にならない。
参考記事:
1964年7月27日付朝日新聞夕刊(東京3版)6面「度を越した五輪ムード」
2021年4月14日付 朝日新聞朝刊(大阪13版)29面「開幕100日前 揺れる聖火」
参考資料:
東京五輪公式ホームページ