筆者は小学校高学年からひとり親家庭で育ちました。とはいえ「何も心配することはない。好きなことをしなさい」と言われてきました。母には「父親にも母親にもなる」、「大学を卒業するまではしたいことをさせてあげたい」という強い信念があったからです。21歳になった今、当時のことを聞くと、筆者の知らなかった話が次から次へと出てきます。筆者が鈍感だっただけかもしれませんが、自身の苦労を悟られないよう気丈に振る舞っていた母には感謝してもしきれません。
ただ鈍感な筆者でも気付くことがありました。専業主婦、シングルマザーの再就職が決して簡単ではないということです。母は結婚してすぐ専業主婦になり、度重なる転勤と父の単身赴任。実家が遠く子育てを手伝ってくれる人が身近にいなかったため10年以上職に就いていませんでした。
ファーストキャリアで止まっていた母は、仕事に就こうとした出鼻をくじかれます。働き口を探すため向かったハローワークで、「職歴がないと再就職は難しい」と長いブランクを危惧されたそうです。
母子家庭であることを隠して採用面接を受けると、「旦那さんの職業は何ですか」と聞かれ、父の職業を答えると「じゃあ働く必要ないじゃないですか」。挙句の果てには「そんなに細くて仕事ができるのか」と体型を指摘されました。「自分はなぜ働いてこなかったのだろう。本当に悔しかった」と振り返ります。
最終的に食品問屋のパートに決まりました。重いダンボールを運ぶ作業が多く、子どもながらに力仕事をする母の身体を心配していました。ただパート仲間には子育て中の母親たちが多く、学校の行事に参加できるよう支え合えたことは唯一良かったと言います。
日本の課題は、再就職の壁が今もなお高いことです。下図を見れば明白なように、女性の正規雇用率は20代後半をピークに減少しています。結婚、出産を機に退職する女性が多いためです。問題は、再就職したいと考えている女性が正規雇用として社会に戻りづらいこと。これを「L字カーブ」というそうです。
今日の日本経済新聞朝刊では、女性の働き方に関する記事が載っていました。紹介されていたのは、明治安田生命。4月から女性契約社員1900人を正社員に登用するといいます。契約社員が担ってきた定型的な事務はIT化、AI技術の導入で人の手を必要としなくなっています。ここで非正規職員を辞めさせないのは、優秀な人材を手厚くサポートすることで将来訪れるだろう働き手不足に備えるためです。正社員になれば昇給幅は拡大し、管理職以上への昇進も望める。今まで以上に女性が活躍しやすい環境が与えられます。
長期ブランクがあるから働けないのでは。子どもがいるからすぐ休むのでは。
このような偏見が女性の可能性を狭めています。能力を存分に発揮できる環境づくりは道半ばです。偏見のない採用、そして女性が正社員として働ける、雇用の受け皿を切に求めます。
参考記事:
30日付日本経済新聞朝刊13面「明治安田、女性1900人転換」