行動で示してほしい「未来志向」

「戦後間もないころ、海軍兵として横浜にいた。タクシーに乗ろうとしたら、『アメリカ人はお断り』と、乗車を拒否された」

筆者は17歳のころ、アメリカ・アリゾナ州に留学していました。当時出会った人から、冒頭のように言われたことがあります。正直、何と返していいのか分かりませんでした。満洲事変、真珠湾攻撃、原爆投下。すべて、この世界で起こっていたことなのだ。身を持って感じたのを覚えています。

戦後70年談話(安倍談話)に関する有識者会議「21世紀構想懇談会」は6日、安倍首相に報告書を提出しました。先の大戦における侵略と植民地支配の事実を認め、指導者の責任にも言及しました。一方、平和主義を貫いた戦後日本の歩みには一定の評価を与えました。首相は「先の大戦から我々は何を学び、どのような道のりを進んでいくべきかということを、世界に向けて発信していく談話を作成したい」と語っています。近ごろ、テレビ番組などでも「安倍談話」をとりあげたものを目にします。「侵略」、「痛切なおわび」、「植民地支配」。どういった言葉で日本の思いを世界に伝えるのか、国内はもちろん海外からも注目されています。とりわけ中国や韓国に関しては、今回の安倍談話が今後の外交に大きく影響するのではないでしょうか。9月に訪中を検討している安倍首相です。発表する安倍談話に対する中国国内の世論を見極めた上で、政府が取る姿勢を固める狙いもあるとみています。

「言葉って、そんなに大切なのかなぁ」。安倍談話に関する新聞記事を読むと、毎回そんなことを考えてしまいます。「首相の談話」ではなく「安倍談話」として発表する以上、日本の意思や考え方を反映していると捉えられるため、単語一つひとつに気を遣わなければならないのは分かります。ですが、言葉だけではおぼつかない気もします。「痛切な反省」「おわび」という単語をつかえば、被植民地だった国々は納得するのでしょうか。

戦時中や戦後に、植民地支配や差別があったことは事実です。原子爆弾によりたくさんの尊い命が一瞬に消えた過去も、変えられません。その事実をどう未来の平和につなげていくか。言葉で示すよりも大切なことが、ほかにあるのではないかと思います。

「安倍談話」をめぐるニュースからは、そんなことも考えさせられました。皆さんは、今回の首相談話に対して何を思うのでしょうか。

 

参考記事:

7日付 朝日新聞朝刊(大阪14版)1,2,4,12,37面

 

同日付 読売新聞朝刊(大阪14版)1,2,3,4,8,9,10面

 

同日付 日本経済新聞(大阪14版)1,2,3,4,8面

 

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