中印国境紛争 対岸の火事と思うな

ついに一線を超えました。中国とインドによる軍事衝突。朝日新聞は9日、中印国境地帯で発砲があったと報じました。運よく死傷者は出なかったそうですが、銃器が使われるのは45年ぶりの出来事です。背景には5月から断続的に発生している小規模な衝突があります。

今年5月5日、中国軍はインドと接する国境地帯の3ヶ所に軍部隊を展開させました。以来、双方の兵士による殴り合いと投石が散発的に発生。6月16日には、双方の数十人の兵士が死亡しました。BBCの報道によると、狼牙棒という殺傷能力の高い棍棒が乱闘に用いられたそうです。7月から9月にかけては、インド政府がTikTokを始めとする中国製スマホアプリ100種類以上の利用を禁止する件もありました。中印関係は急速に冷え込み、ついに発砲という事態にまで至ったのです。

領土を揉めているのはインドだけではありません。7月下旬には、ブータン東部の領有問題を提起しました。中華人民共和国の建国以来、正式な国交を結んでいない2ヶ国は、過去24回の国境画定交渉を重ねていたものの、中国は今まで議題に上っていなかった地域の領有を、今年になって主張し始めています。

隣国との政治経済関係が悪化してでも、領土問題については一切譲歩しない「戦狼外交」の国です。カシミール、西沙諸島、南沙諸島。いずれも対岸の火事ではありません。我々も尖閣問題を抱えています。ブータンの例を見れば、後々、沖縄の領有権まで主張し始めることも想定できます。正面衝突を避けるには、相手の外交戦略を適切に分析し、刺激を与えないこと。そして、十分な軍事力を以て、隙を見せない構えを取ることが不可欠だと思います。

先日実施された自民党総裁選の公開討論会では、少子化対策や経済政策、国会運営のあり方などが論題に取り上げられた一方、外交問題が俎上に載りませんでした。国内外から批判を受けやすい非常に繊細なテーマなので、各候補とも避けたのでしょう。その意図はある程度理解できます。ただ、世界各国がそれぞれコロナ禍に対処している現在も、国際関係は日々刻々と変化しています。中国もインドも行動しています。11月には、米国大統領選も控えています。隣国の動向、そして新首相の外交戦略を、我々自身も注視する必要があるでしょう。

 

参考記事:

9日付 朝日新聞朝刊(大阪13版)9面「中印の国境で発砲か」

日経電子版「中国、ブータンで領有権争い インドけん制の見方も」

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61851460S0A720C2910M00/