首相辞任 新聞報道とネット界反応の差異

8月28日午後5時。私は学生寮の仲間と食堂に集い、テレビ中継をじっと見つめました。悔しさを時折にじませつつも、柔和な表情で辞任決断の経緯を語る安倍首相。筆者が弱冠13歳のときからずっと続いてきた政権があっけなく終焉を迎えたことに、ただただ驚きました。一つの時代の終わりを感じ、心にポッカリ穴が空いたような気持ちになりました。

翌日の新聞には「安倍首相 辞任」の大見出し。各社それぞれ、長期政権を総括した特集を組んでいました。朝日新聞は、株価と雇用が上向いたことを評価しつつも、公文書改ざん問題や森友・加計問題、政府の人事権が官邸に集中したことなどに触れ、「負の遺産」を教訓にしなければならないと主張しました。

読売新聞は、特定秘密保護法や集団的自衛権の見直し、テロ等準備罪の制定を始めとする国論二分の課題に果敢に挑戦したことを高く評価する言説。また、感染症対策やコロナ不況、安全保障環境の激変などの国家的危機に対し、早急に強力な体制を築くよう求めました。日経新聞は、道半ばに終わったアベノミクスを切れ目なく遂行するよう論じています。

各紙とも、政権の歩みを様々な側面から分析しつつ、その功罪を論評し、非常に充実した内容でした。突然の出来事に驚くばかりではなく、次代に何が引き継がれ、何が捨て去られるのか、注目しなければならないという気持ちになりました。

首相辞任の報は、ネット上でも驚きを以て受け止められました。しかし、安倍政治そのものが論じられることは少なかったように思います。むしろ、退任を大喜びする左翼と、重病人に鞭打つ発言は品位に欠けると憤怒する右翼の泥仕合でツイッターは荒野化しました。特に、立憲民主党の某議員の「体を壊す癖のある危機管理能力のない人物」というツイートが波紋を呼びました。人の能力と健康を結び付けて批判する発言に擁護の余地はないものの、一部の国会議員や著名な政治学者までもが、こんな些細なことで大騒ぎしているのは見るに耐えません。

後継について、ネット上の安倍信者たちは河野防衛相を強く推しています。「中韓に対し、毅然とした態度で立ち向かえるのは河野だけ。石破や二階のような中韓になびく売国奴はあり得ない」という理由です。あまりにも単純な理屈に驚嘆させられました。河野氏は防衛力強化を主張していますが、中国と対決することなど望んでいません。石破氏や二階氏は、相手との関係改善に注力すべきだという立場でしかありません。もちろん外交姿勢は重要な判断要素ですが、それだけで支持者を決めるのはどうかと思います。経済政策やコロナ対策の指針、東京五輪への考え方、そして政権運営の体質。様々な分野での各候補たちの持論を比較してから、判断を下すべきです。

新聞報道とネット界の差。どちらの視野が広く、質の高い情報源になっているかは言うまでもありません。ネット民の多くは新聞を批判しますが、その論評に今こそ目を通し、長期政権の様々な側面や首相候補たちの政策を詳しく知って欲しいと思います。

最後に、自民党国会議員にも言いたいことがあります。

醜い派閥闘争や票数集めだけに終始するな!
 後継候補はまず、自身の考える政策を声高らかに宣言せよ!

良くも悪くも安定的だった安倍一強の時代が終わった今だからこそ、多様な主義、主張が展開されるべきです。党の功労者たる安倍氏への厳しい批判も噴出するような自由闊達な政策論争を期待したいものです。

 

参考記事:

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安倍首相の辞任を伝える新聞各紙