【特集】失われゆく遊廓の記憶を求めて 「カストリ書房」渡辺氏

 「趣味が高じてと言ってしまえばそれまでなんですけど。この仕事をやろうと思った理由は遊廓・赤線に関して『情報提供する役割』を担いたいと思ったからです」

 こう語るのは、遊廓・赤線関連の書籍を専門に扱う「カストリ書房」の店主・渡辺豪氏だ。

 2011年頃から趣味で遊廓や赤線を調べ始めたという渡辺氏。渡辺氏が調べ始めた時には既に建物や当時を知る人が急速に失われてつつある時代に突入していたという。

この現状に対して何かできることはないだろうか──。

そう考えた渡辺氏は、自身が集めた遊廓・赤線の情報を提供する書店を開くことにした。

東京・吉原にある「カストリ書房」。店内には、遊廓・赤線など性風俗関係の書籍がずらり。3月24日、筆者撮影。

 「自分自身が研究者になって遊廓を調べたいわけではなくて、そういったことを調べている人たちに情報提供をして有益な形になればいいなと思っています」

そのような思いで開業した「カストリ書房」では書籍の販売だけでなく、復刻や資料室の運営なども手掛けている。復刻は著作権が切れ、価値のあると判断した本を中心に進めており、店内で平積みされている『全国遊廓案内』や『全国女性街ガイド』もその一つだ。

一方、資料室は、絶版となり入手困難となった書籍や渡辺氏が都道府県ごとに収集した遊廓・赤線に関する資料、戦後の混乱期に濫造されたエロ・グロを主に扱う「カストリ雑誌」など千点以上が所蔵され、有料で公開してある。

どれも貴重な資料ばかりで、国立国会図書館でさえ所蔵していない文献も数多くあるそうだ。

ただ、収集方法は、意外にも地道だ。ネットで集める他、地方の図書館を訪問し、集めることが多いという。

「OPAC、カーリルローカルとか全国の図書館を横断検索できる仕組みは整っていますが、これらではどうしても取りこぼしちゃう資料が出てくるんです。例えば、『○○町 眠らない町』って題の資料。恐らく色街関係の資料なんですけど、『○○町 遊廓』って調べても出てこないんですよね」

そのような横断検索では見つからない、見つかりにくい資料があるからこそ、全国各地の図書館を訪れては、丹念に資料を探すそうだ。

渡辺氏が収集した都道府県ごとの資料集。膨大な数である。3月24日、筆者撮影。

 「こういった趣味性の強い職業は、趣味が高じて、自分も楽しみながら仕事になってますみたいに取り上げられることが多いと思いますが、僕はそこに入って行きたいとは思わないです。割とプロフェショナルなことをやってるつもりではいます。なぜなら、研究者に対しても利用価値のある情報を提供できている、との自負があるからです」

 失われゆく遊廓・赤線の記憶。それを丹念に収集、提供し、後世に残そうとする渡辺氏。その活動は現代よりも数十年後の未来の方がより高く評価される気がする。