厚生労働省の統計によると、2024年に自殺した小中高生は529人と過去最多を記録しました。そこには、社会全体が抱える深刻な課題が映し出されています。子どもたちの悩みを周囲が的確に察知することは決して容易ではありません。文部科学省の調査では、23年度に自殺した児童生徒のうち半数近くが特に悩みを抱えている様子を示しておらず、要因は「不明」とされる事例も少なくありませんでした。家庭や学校、友人関係など複雑な事情が絡み合う中で、最後のサインが見えにくいのが現実です。
青少年の自殺問題は日本に限られた話ではありません。韓国でも同様の問題が深刻化しています。韓国の有力紙中央日報によると、23年に自ら命を絶った小中高生は214人にのぼりました。原因の内訳を見ると、「精神科的」問題が68件と最も多く、次いで家庭問題が58件、対人関係が57件、学業・進路問題が35件と続いています。一方で原因不明は71件に達しており、背景を特定することの難しさが示されています。両国に共通するのは、若者たちが声にならない苦しみを抱え込み、周囲に十分に伝わらないまま命を絶ってしまうという構造です。
この状況を前に、どのようにして自殺を未然に防ぐかが問われています。朝日新聞は、自殺予防の新しい取り組みとして「ネット上の投稿分析」に注目していると報じています。実際の例として、21年に北海道旭川市で亡くなった広瀬爽彩さん(当時14歳)のいじめ問題をめぐるシンポジウムが24年7月、都内で開かれました。調査委員会が焦点を当てたのは、広瀬さんが生前に残した複数のSNS投稿でした。断片的なメッセージを一つ一つ書き起こし、「いじめ」「死」「怖」といった言葉がどの時期にどれほど使われていたかを整理した結果、これらの言葉が亡くなる直前まで繰り返し現れていたことが明らかになったのです。
この事例は、デジタル社会において新たな「SOSの痕跡」をどう読み取るかを問うています。従来の相談窓口や学校での声かけだけでは限界があります。匿名性の高いSNSでは、子どもたちが家族や教師には言えない心情を吐き出している場合があるのです。
ただし、ネットの活用だけですべてを解決できるわけではありません。日常の中で小さな変化を感じ取り、子どもに寄り添う周囲の姿勢が不可欠です。特に日本や韓国のように学業や進路へのプレッシャーが強い社会では、「弱音を吐くことが許されない」という空気が子どもを追い込むことがあります。だからこそ、学校や地域、家庭が一体となり、安心して悩みを話せる場を増やしていく必要があります。
青少年の自殺は、社会全体を映す鏡でもあります。彼らの苦悩を「個人の問題」として片づけるのではなく、教育制度や家庭環境、地域社会のあり方と結びつけて考える必要があります。命の危機に直面している若者の声に耳を傾け、その思いを受け止められる制度や文化を築いていくことは、私たち大人の責任なのです。
中央日報2024年9月27日「昨年自ら命を絶った小学生15人…青少年で史上最多=韓国」
朝日新聞2025年9月15日朝刊「ネットだけに本音、子どもの自殺分析 国の調査、半数近く要因「不明」」
朝日新聞2025年9月15日朝刊「(時時刻刻)遺された37万字、14歳の苦しみ 亡くなった子の投稿履歴、書き起こして分析」