下鴨納涼古本まつりに参加して

8月11日から16日まで、京都府京都市の下鴨神社で「下鴨納涼古本まつり」が開かれました。筆者は12日に足を運び、1000円を握りしめて古本を探し歩いてみました。

<8月12日筆者撮影>

境内には数多くの古本屋が軒を連ね、それぞれの店先には新しい本から古びた教科書まで、出版年度もジャンルも多種多様な書籍が並んでいました。立ち止まって一冊ずつ眺めていると、時間が経つのを忘れてしまうほどです。最初に目を引いたのは「3冊400円」という値札が掲げられた一角でした。単行本が中心の店が多いなか、ここでは新書も多く揃っており、手に取りやすい価格に惹かれてじっくりと探してみました。

 

まず手に取ったのは『天声人語11』。朝日新聞の人気コラム「天声人語」は1904年1月5日から連載が始まり、今もなお続く歴史ある記事です。日々の出来事を短い文章にまとめ、社会の縮図を映す役割を果たしてきました。この本には85年から88年までの天声人語が収録されており、当時の出来事や社会の空気を知ることができます。現代の視点で読み返すことで、その時代の人々が何を考え、どのような課題に直面していたのかを垣間見ることができるのです。

 

次に選んだのは、佐野眞一著『日本のゴミ』(97年刊行)。筆者はもともと気候変動や環境問題に関心を持っており、90年代のゴミ問題が当時どのように捉えられていたのか知りたいと思いました。この古本には赤い色鉛筆で線が引かれており、以前の持ち主が「ここが重要だ」と思った箇所が一目で分かります。その痕跡と自分自身の読み方を重ね合わせ、前の読者と対話しているような感覚を味わえるのは、古書の醍醐味のひとつだと感じました。

 

3冊目はフロイドの著作集『性と愛情の真理』。哲学や思想書は難解で、一文ごとに立ち止まって考え込むことが多いのですが、哲学そのものに関心があり、新書や古典も時折買い集めています。今年の春学期、大学で「家族社会学」の授業を受け、多様な家族の形や愛のあり方について考える機会がありました。そこでは「絶対の正解はない」ということを学びましたが、自分なりの価値観を持つことの重要性を痛感しました。そうした価値観を築くうえで、哲学者の言葉や思想に触れることは大切だと思っています。フロイドの著作からも、これからの生き方や人生観を考えるヒントを得られるのではないかと期待しています。

 

残ったお金は600円。会場には昔の漫画や雑誌も多く並んでいましたが、値段の割に欲しいと思えるものは少なく、思っていた以上に古本の価格が高いこともあり、慎重に選んでいました。そんな中で見つけたのが『ハーバードの女たち』(200円)。ハーバード大学を卒業した女性たちが、その後どのような人生を歩んでいるのかを描いた本です。大学の授業やゼミでもジェンダー平等について議論することが多く、また、筆者自身も妹二人と共に、男性優位的な価値観が残る家庭で育ってきました。祖母が妹には厳しく、筆者には特別扱いをする場面も多く、幼い頃からその不公平さに疑問を抱いてきました。この本を通じて、女性たちが直面してきた現実や、社会で生きる上での課題を知り、古い価値観をどう変えていくべきかを考えたいと思いました。

 

最後に選んだのは『被差別部落のわが半生』(300円)。手に取ると、装丁の状態が非常に良く、丁寧に保管されてきたことが伝わってきました。筆者は京都府のウトロ平和祈念館でボランティア活動をする中で、差別問題に強い関心を持つようになりました。ただし、部落問題については大学の授業で取り扱われる機会が少なく、知識も限られています。この本を通じて、部落に生きた人々が直面した差別やその実態を学びたいと考えています。

 

こうして1000円で、興味関心のあるテーマの本を5冊も購入することができました。まだすべてを読み終えてはいませんが、机の上に積んでおくだけでも自分にとっては価値があると思います。本棚に眠る一冊一冊が、将来どこかで自分の思考や行動に影響を与えてくれるかもしれません。お金に余裕のない大学生にとっても、古本は新たな知識や視点を手に入れるための有効な手段です。機会があれば、ぜひ古本まつりに挑戦してみてはどうでしょうか。

 

【文献リスト】

佐野眞一『日本のゴミ』(ちくま文庫、1997年)

辰濃和男『天声人語11』(朝日文庫、1989年)

フロイド、安田徳太郎・安田一郎訳『性と愛情の心理』(角川文庫、1955年)

山下力『被差別部落のわが半生』(平凡社新書、2004年)

リズ・ローマン・ガレーず、江川雅子訳『ハーバードの女たち』(講談社文庫、1991年)

 

【参考】

朝日新聞ひろば、「天声人語の歴史」https://info.asahi.com/guide/tenseijingo/history.html(最終閲覧日2025年8月12日).