SNS社会とブランディング

「パパ活バッグ」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。そもそも「パパ活」とは、若い女性が基本的に性的関係ではない方法で中高年の男性と食事などをとり、その対価として金銭や物品を受け取る行為のことを指します。パパ活をする女性が持つバッグの総称で、そして、その代表格とされるのが、ハイブランドであるディオール製品です。SNS、特にX(旧Twitter)でこういった内容が多数投稿された結果このような認識が形成されてしまいました。

ブランドの公式サイトでは、このバッグについてエレガンスさや美を体現した、スタイリッシュで上品なデザイン、モダンさが魅力のアイテムであると紹介しています。ブランド側としては、「パパ活バッグ」と呼ばれることは喜ばしいことではないでしょう。

 

ブランドイメージは、誰もが発信者となり得るSNS時代を迎え、意図しないイメージと結びつくことも起こるようになりました。そのため、ブランドのイメージ戦略、いわゆるブランディングは否応もなく新たな局面へと向かっています。

 

このようなブランディングの現状を、筆者は広告の授業をきっかけとして知りました。そこで、今回は筆者の経験から考えたいと思います。

 

2024年10月から12月にかけて、京都市にある京セラ美術館で「GUCCI COSMOS」(グッチ コスモス)が開催されました。グッチの日本上陸60周年記念や姉妹都市フィレンツェとの長年にわたる交流をたたえる狙いからで、グッチのこれまでの歴史を紹介するものでした。

 

筆者が訪れた際の最初の印象は、「異空間」感でした。来場していた人々の見栄えを強く意識した服装、漆黒のスーツを身に纏った男性スタッフ、また彼らの言葉使いと明るさを抑えた照明。様々な効果により実世界から離れた「GUCCI」の世界がそこにありました。

 

この展示会については、京都市内を中心にバスの停留所や駅、百貨店などでのポスター広告のほか、デジタル広告、またSNS上でのネット広告が使用されていました。デザイン自体が赤を基調とした高級感溢れるものでした。筆者はSNSより街中での広告の方が与える印象は強かったと感じています。日ごろ縁遠いハイブランドの広告という非日常性が街中にあったことでより興味を持ったからでしょう。ハイブランドがこのネット時代にあえてSNSを活用しないというのは、ある一定層にだけ訴求するというブランドイメージを維持する戦略の一翼を担っているとも考えられるのではないでしょうか。

 

しかし、こういった高級志向を維持する一方で、より多くの人に興味をもってもらう広告戦略も見受けられます。今年の2月から3月にかけて開催されたパリ・ファッションウークでその傾向をみることができるでしょう。

 

最近のファッションブランドの共通点として、イメージモデルを起用することが挙げられます。ファッション誌の公式SNSに投稿される写真では、多くのK-popアイドルや日本人のアイドル、俳優の姿をみることができます。こういった手法はこれまで訴求できなかった層に「宣伝」を感じさせることなく、興味を持ってもらう狙ったものです。筆者も「推し」を追いかけるなかでブランドを検索し、一つのアイテムに憧れを抱くようになりました。こういった戦略は、現在すでに定番化しているようです。

 

スターバックスの取り組みも興味深いものです。店舗ポスターとSNSを連動させた企画は、消費者の参加を必要とするものであり、SNSの双方向性を上手く利用した取り組みです。また、コンセプトを重視した新商品の紹介や既存商品のカスタマイズ方法など工夫された投稿が印象的です。それゆえ、SNSを活用したブランディングを最も成功させた企業とも言えるかもしれません。6月4日付朝日新聞朝刊に掲載された、ネット広告についてのインタビュー記事でも触れられていたように、ネット広告に人々は「うっとうしさ」を感じます。誰もが一度はそれらにイライラした経験があるでしょう。

 

そんなSNSが氾濫する時代に、スターバックスは自社の本質的な価値、(例えば、オリジナリティーや人々を引きつける目新しさ)、を訴求したことでSNSでの宣伝を効果的なものにできたのでしょう。特にSNSの中心的ユーザーである10代から20代の若者に届けられたため、顧客層を拡大することができたと考えられます。今や「スタバ」は、若者の間ではステータスと化しているのですから。

 

はじめに述べたように、双方向性を持つSNSを活用したブランディングはブランドの意図しない結果をもたらす危険性をはらんでいます。しかし、SNSの特性を上手く活用すれば、新たな消費者を獲得でき、新たなブランドの在り方を見つけることもできるでしょう。ますます情報化が進む今日、そして未来の社会はどのようにブランディングに取り組んでいくのでしょうか。これからの動向が気になります。

参考記事

5月1日付 朝日新聞 夕刊(大阪4版)5面「ブランド拡散 ショー彩るスター」

6月4日付 朝日新聞 朝刊(大阪13版)9面「耕論 ネット広告だらけ」

参考資料

Dior https://www.dior.com/ja_jp/fashion/lady-dior