完成すれば東京と札幌を約4時間半で結ぶ北海道新幹線。これまで空路での移動が中心であった区間に新たな移動手段がもたらされることになり、沿線の活性化に期待がかかります。
ただ、トンネル工事の難航などにより札幌延伸は大幅に遅れることが明らかになり、地元では波紋が広がっています。
◯北海道新幹線とは
北海道新幹線は新青森駅から津軽半島、青函トンネル、北海道南西部の渡島半島を通って札幌駅に至る路線です。
2016年に新青森-新函館北斗間が開業し、現在は新函館北斗-札幌間で建設工事が進められています。
最短の所要時間は、東京-新函館北斗間で約4時間、東京-札幌間で約4時間半となります。前者の場合、一部の列車では新幹線と飛行機のいずれを選択するかの分岐点になるとされる「4時間の壁」をクリアします。
◯開業目標は38年度末に
ただ、札幌延伸に向けた工事は大幅に遅れています。
3月中旬、「北海道新幹線(新函館北斗・札幌間)の整備に関する有識者会議」は新函館北斗-札幌間の開業目標を38年度末に延期すると明らかにしました。当初35年度とされていた目標は15年に30年度末へと5年前倒しされましたが、今回の変更で当初の計画よりも遅れる見込みとなりました。
主な原因はトンネル工事の難航で、巨大な岩塊や地質の不良が工程の遅れにつながっています。
有識者会議の報告書によると、今回の見通しは現状で把握しているリスクに基づくものであり、今後、地質などに想定外の問題が見つかった場合には数年単位で開業が遅れる可能性もあるといいます。
◯道内経済への影響
延期によって道内経済にも悪影響が生じる恐れがあります。
近年、沿線自治体では札幌延伸を前提とした再開発や観光振興策が進められてきました。
札幌駅周辺では現在大規模な再開発が進められています。新幹線のホームができる駅東側には大型複合ビルの建設が予定されており、低層階には商業施設やバスターミナル、高層階にはホテルやオフィスが入ります。
水産業や酪農が盛んな八雲町に建設される新八雲駅は「牧場の中にある駅」がコンセプトで、建設予定地は市街地から離れた農地の中に位置しています。自然や食で観光客を呼び込むことを狙います。
延伸が遅れれば地域振興計画にも狂いが生じかねません。
こうした状況を踏まえ道庁が「北海道新幹線札幌延伸特別対策室」を新設するなど、地元は対応に追われています。
地域活性化の起爆剤としての役割が期待される新幹線。開業の大幅な遅れは地元経済への打撃となりかねません。国には早期に具体的な開業日程を明らかにすることが求められますが、沿線自治体にも更なる開業延期というリスクに備え、地域振興策の練り直しが求められています。
参考記事:
日経電子版「北海道、新幹線延伸開業の遅れ対応「特別対策室」新設」(2025年3月28日)
日経電子版「札幌駅前再開発、タワー棟の高さ縮小へ JR北海道」(2025年3月19日)
日経電子版「北海道新幹線38年度末延伸 「遅れ想定上回る」落胆の声」(2025年3月14日)
日経電子版「北海道新幹線、開業38年度末に 3トンネルで工事難航」(2025年3月14日)
日経電子版「北海道新幹線の札幌延伸、38年度末に遅れ 国交省見通し」(2025年3月8日)
日経電子版「新幹線と飛行機の間にある「4時間の壁」 新幹線と地域」(2015年8月15日)
参考資料:
北海道新幹線(新函館北斗・札幌間)の整備に関する有識者会議「北海道新幹線(新函館北斗・札幌間)の整備に関する報告書(令和7年3月報告)」