「5月3日、8月15日は社説を比べなさい」
ゼミの先生が授業で強く語っていた言葉です。今回はそんな言葉を思い出して、憲法記念日の朝日新聞、日経新聞、読売新聞の社説を読み比べてみます。
憲法の基本原則を重視し続けるべきという姿勢は各紙共通でしたが、憲法改正に対するトーンは異なっていました。また、近年の新たな課題であるAIの急拡大やデジタル化に対応し、国会での議論を重ねる重要性を述べていました。
朝日新聞
まず「時計の針が百年単位で巻き戻ったような、むき出しの権力が猛威を振るう世界である」と危機感をあらわにします。トランプ米大統領の専横を批判しつつ、日本国憲法こそこれからの日本が進んでいくべき指針になるとします。旧優生保護法が違憲とされた昨年の判決で憲法第13条が理由になったことを挙げ、憲法の理念を重んじてきたと述べました。
SNSの普及やAIの進化による新たな問題については、「一つずつ吟味し、対処していくことを現憲法は要請している」とし、「国会での熟議の必要性は少数与党であるか否かに関わらない」としました。
防衛費の増大には批判的で、「戦争回避には外交はじめあらゆる知恵が要る。現憲法の求めるところであり、それを貫く覚悟こそ持ちたい」とします。他の2紙より、憲法改正についての記述の分量は少なめな印象です。
民主主義国家として「国民の不断の努力」がますます重い意味を持つと結びます。新たな問題には一つひとつ対処しつつ、世界が混乱している今だからこそ憲法の理念を大切にすべき、と理想を重視する姿勢が読み取れました。
日経新聞
まず改憲について述べました。少数与党で「与野党の幅広い合意が必要な環境だからこそ、国会で熟議を」と議論を深めることを要望しています。改憲について各党の立場を紹介し、立憲民主党の協力が必要と解説したうえで、改正には有権者の納得が必要だとし、冷静な議論を求めました。
日経新聞でも新たな課題について論じられています。選挙における偽情報拡散の規制を挙げ、憲法が保障する表現の自由に抵触せず選挙を守るため、制度の慎重な見直しが必要だと述べました。
読売新聞
「デジタル化やAIへの対応急務」と指摘しています。憲法制定当時になかった課題として、偽画像が選挙結果に影響を与えたことやサイバー攻撃を挙げています。また、地方と都市の格差にも言及し、議員の選出方法や衆院・参院の役割分担を変えることも例に出しました。
憲法改正についても多く述べているのが、読売新聞の特徴です。読売新聞の世論調査では「憲法を改正するほうが良い」との回答が60%に上ったといい、ロシアのウクライナ侵略や中国の活動、北朝鮮の核・ミサイル開発を念頭に「敵のミサイル発射拠点を日本だけで攻撃するのは難しく、米国の協力が必要だ。そのためにも、日本自身が平和を守るために努力し続けることは欠かせない。そうした観点からも、憲法を見直すことは避けて通れまい」と主張します。
また、「緊急事態条項」の議論についても、「議員任期の延長をあらかじめ定めておく意義は小さくない」と前向きな姿勢です。最後に、課題があるのにも関わらず、少数与党の影響があり改憲の議論がなされていないと指摘。「審査会に具体的な条文案を提示し、それをたたき台として議論を進めていくべきだ」と述べています。
読売新聞の社説は、現在の世界情勢をより厳しくとらえ、他国の脅威から国を守る防衛力の強化のためには改正が必要だという、現実主義的な考え方だと感じました。
改憲は昔から議論されてきました。安全保障はアメリカと日本だけの問題ではなく、昨今の世界情勢で一段と複雑化しています。改憲の捉え方は様々ですが、平和を守りたいという憲法の基本理念に沿うべきであることは各紙一致しています。また、SNSやAIなどの新たな問題について、対策していく必要性があるとします。各紙とも、国会での冷静で活発な議論を要望していました。どのように進められるか、注視したいものです。
憲法に関しては様々な論点や立場があり、一市民の私たちからするとよくわからないものと感じていました。しかし、すべての法律のもととなる憲法は、私たちの生活に深く関係しています。戦後80年の今年、このような社説を含めた報道が世界情勢や平和について自分ごととして考えるきっかけになることを願います。
参考記事
3日付朝日新聞朝刊 「戦後80年と憲法 この規範を改めて選び取る」
3日付読売新聞朝刊 「憲法記念日 時代の変化と課題の直視から」