脱炭素目指す海運の新たな動き

国際海運の「脱炭素」実現に向け、国連の専門機関である国際海事機関(IMO)が新たな規制に合意しました。

 

国際海事機関(IMO)とは?

IMOは、船舶の安全や海洋環境保護に関する国際ルールを定める国連の専門機関で、「2050年ごろまでに国際運航からの温室効果ガス(GHG)の排出をゼロにする」という目標を掲げています。24年8月時点での加盟国数は176ヶ国、準加盟国として香港など3地域が参加しています。

 

新たな規制とは?

新規制では、温室効果ガスの排出量が多い船舶に負担金を課し、集まった資金を脱炭素の取り組みに充てます。海洋汚染防止条約の改正案として、IMOの委員会で加盟国の賛成多数で基本合意がなされました。

この規制では、各船舶が排出する温室効果ガスの量に基づいて、各船舶が原則守るべき「規制値」と目指すべき「基準値」を設定しています。35年までに、規制値は08年比で30%削減、基準値は同43%削減とされており、その後も段階的に厳しくなっていきます。

この数値を超えた排出に対しては、規制値超過分には1トンあたり380ドル、基準値を超えた分には100ドルの負担金が課されます。集まった負担金はゼロエミッション燃料船への報奨金や途上国・島嶼国による燃料転換の支援に活用される予定です。この規制は、18年にIMOが掲げた「GHG削減戦略」の実現のための大きな一歩になるでしょう。

【GHG削減戦略】

・30年までに国際海運全体の燃費効率(輸送量あたりのCO₂排出量)を40%以上に改善する(対2008年比)

・50年までに、国際海運からのGHG総比排出量を50%以上削減する(対2008年比)

・今世紀中のなるべく早期に、国際海運からのGHG排出ゼロを目指す

 

 

日本の取り組み

日本の大手海運会社である商船三井は 3、アンモニアを主燃料とするばら積み船とタンカーの計9隻を、29年までに就航させる方針を発表しました。アンモニアは燃焼時にCO₂を排出しないため、実用化が進めば脱炭素化に大きく貢献します。

また、日本郵船は 2、建造中のアンモニア燃料船をノルウェーの肥料大手ヤラ・インターナショナルに貸し出す契約を締結しました。同社は、アンモニア燃料で動く世界初のアンモニア輸送船を、熊本県長洲町の造船所で建造すると発表していました。

IMOによる国際的な規制の強化と、日本を含む各国企業によるゼロエミッション燃料船の開発や導入は、海運業界の脱炭素化に向けた重要なステップです。排出量の多い国々が積極的に取り組むことで、国際海運における持続可能な未来への転換が現実味を帯びてきています。

 

 

 

参考記事

4月17日付朝刊 朝日新聞(京都14版)3面「海運CO2抑制へ負担金」

3月24日付 日経新聞デジタル 「商船三井、アンモニア燃料輸送船を運航 29年まで9隻」

2月10日付 日経新聞デジタル「日本郵船、アンモニア燃料船を貸与 ノルウェー企業に」

 

参考資料

IMO、「Third IMO GHG Study 2014」、 https://www.imo.org/en/OurWork/Environment/Pages/Greenhouse-Gas-Studies-2014.aspx

国土交通省、「国際海運におけるゼロエミッション燃料船の導入促進のための条約改正案に合意 ~国際海事機関(IMO)第83回海洋環境保護委員会(4/7~11)の開催結果〜」、https://www.mlit.go.jp/report/press/kaiji07_hh_000367.html

国土交通省、「国際開運の2025年カーボンニュートラル達成に向けて」、 https://www.mlit.go.jp/maritime/content/001484435.pdf

国土交通省、「IMO(国際海事機関)の概要」、https://www.mlit.go.jp/maritime/maritime_tk1_000035.html