欧州の「盟主」に広まるポピュリズム ドイツ総選挙で極右台頭

ヨーロッパ随一の経済大国であり、フランスとともにEUを主導する「盟主」でもあるドイツ。

ナチスの反省から民主主義の理念を重視し、移民にも寛容な政策をとってきましたが、近年その姿は変容しつつあります。

 

◯極右政党の躍進

23日、ドイツ下院の総選挙が行われ、最大野党の中道右派「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)」が得票率28.6%で第1党となりました。同党はメルケル前首相が所属した政党であり、4年ぶりの政権復帰が実現すると見られます。一方、ショルツ首相が率いる中道左派「ドイツ社会民主党(SPD)」は、得票率が前回の21年から9.3ポイント減の16.4%に落ち込む大敗となりました。

今回の総選挙で注目されるのは、反移民・難民を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の躍進です。得票率は前回から倍増して20.8%となり、二大政党の一つであるSPDを抜いて第2党に躍り出ました。

 

◯極右ポピュリズム政党の台頭

ポピュリズムは多様な定義のある概念ですが、一般的には「大衆迎合主義」や「人気取り政治」などとも呼ばれ、エリート批判や反移民・難民といった排他的な姿勢が特徴とされます。AfDも反移民・難民やEUに懐疑的な姿勢を打ち出し、移民問題や経済の停滞に苦しむドイツ国民から支持を集めました。

近年、ヨーロッパでは極右ポピュリズム政党が勢力を拡大し、政権与党に参画する事例も見られます。極右への忌避感が強いとされていたドイツでのAfDの台頭は、欧州の右傾化を象徴する出来事と言えるでしょう。

 

◯大連立の行方は

今回の総選挙で第1党になったCDU・CSUですが、得票率は3割弱と過半数にははるかに及びません。そのため、他党と連立政権を組む必要があります。

第2党はAfDですが、ナチス台頭の反省からドイツでは極右政党との連携はタブー視されており、次期首相候補でCDU党首のメルツ氏も可能性を否定しています。

有力と見られているのはSPDとの大連立です。両党はメルケル政権時代にも大連立を組んだことがあります。

二大政党が手を組めば、ドイツ政界はひとまず落ち着きを取り戻すでしょう。

 

◯残る課題

ただ、大連立がスムーズに成立したとしても、より本質的な課題は残ります。

政治学者の水島治郎氏は、その著作「ポピュリズムとは何か」の中で、ポピュリズム政党が支持を集める背景として、左右の主要政党の主張の接近とそれに伴う選択肢の喪失を挙げています。

新政権の政策が軌道に乗らず、両党の連立が有権者の目に「野合」と映ってしまえば、AfDの主張に一段と説得力を持たせることになるのではないでしょうか。

また、極右政党との連携がタブーであるとはいえ、20%超の得票率を集めた政党を完全に無視することには限界があるでしょう。

 

経済、政治の両面で欧州を牽引してきたドイツ。

その混乱は世界に影響を与えかねず、今後も動向に注視する必要があります。

 

参考記事:

2月25日付 朝日新聞朝刊1面「独・右翼、第2党に躍進 中道右派が政権復帰へ、連立は拒否 総選挙」

2月25日付 朝日新聞朝刊2面(総合2)「(時時刻刻)右傾化の波、ドイツまで 移民・東西格差に不満、マスク氏ら加勢 総選挙」

日経電子版「ドイツ、保守野党が政権復帰へ 総選挙で極右AfDは第2党」(2025年2月24日)

日経電子版「ドイツも極右ドミノで前途多難 ウクライナ支援にも影」(2025年2月24日)

参考資料:

水島治郎『ポピュリズムとは何か-民主主義の敵か、改革の希望か』(中央公論新社、2016年。)