筆者は最近、「触法障がい者」に対する支援を行うNPO法人「ぴあらいふ」に密着したドキュメンタリーを視聴しました。過去に何らかの罪を犯し、居場所を失った障がい者に対し、生活支援・自立支援を続ける「ぴあらいふ」の方々の活動が映し出されていました。時に厳しく、時に温かく寄り添う職員の方々の姿、泣き崩れながら助けを求める障がいを持つ方達の姿が印象的でした。
今回は、罪を犯した者に対する刑罰として今年導入されることが決まった「拘禁刑」について考えていきたいと思います。
拘禁刑とは、2025年6月1日に施行される刑法改正により導入される新しいシステムです。これまでの懲役と禁錮が一本化されました。これにより、懲役刑で義務付けられていた一律の刑務作業が廃止され、受刑者一人一人に合わせた適切な刑務作業や教育が行われるようになります。
受刑者に対する懲らしめという性格もあった刑罰が、社会復帰に向けた「立ち直り」の後押しへと軸を移すことになりそうです。法務省の説明によると、拘禁刑導入の目的は刑事施設における受刑者の処遇の充実を図るためとされています。
具体的な内容については、薬物依存や性犯罪の受刑者に対しては、医学や心理学のプログラムが強化され、若者には教育や職業訓練を受けさせ、また身体機能が低下した高齢者にはリハビリを重視するなどの処遇が想定されています。
このような制度が実施される背景には、再犯率の高さ、特に精神障がい(知的障がいも含む)を持つ人の再犯率の高さがあるとされています。法務省の統計によると、2015年に再犯で刑務所に入った人を対象にした調査では、精神障害のない人では、出所して半年未満で罪を犯した人が20.2%だったのに対し、知的障害のある人は33%、知的以外の精神障がい者では22.7%となっています。
障がいを持つ人の再犯率が高い要因としては、生活での困りごとを相談する人やサポートをしてくれる人がいない、刑務所を出所後に帰る場所がないことなどが挙げられます。
以前、大学の講義で触法障がい者の支援を行う方のお話を聞く機会があったのですが、「彼らには生きる術や知識がない」「お腹が空いてコロッケを万引きして、うまくいったらまた同じことをしてしまう」「それを教えてあげる準備ができてない社会がダメやと思う」と率直に仰られていました。
刑務所を出所したとしても、居場所や生きる術を持たない彼らは苦境に立たされ、結果的に犯罪を繰り返すケースも多くなっています。そのため、今回導入される「拘禁刑」では、適切な支援が用意され、彼らの生きる力を育み、再犯の防止を図ることが期待されます。
犯罪者に対する教育や支援を良しとしない声も多々あり、もっと刑は重くていいなど、SNS上では様々な意見が飛び交っています。しかし、罪を犯した者が、心から罪を償うことはもちろん、生きる力を養い、罪に走ることのない良い状態へと昇華させることができるのであれば、再犯率は下がり、結果的により良い社会の実現へと繋がっていくのではないかと筆者は考えます。
この制度がどのような影響をもたらすのか、これからも見続けていきます。
参考文献
【孤立と再犯のループを断つ】塀の外に”居場所”を〜罪を繰り返す障害者たちを救いたい〜 あるNPO法人の闘い【ABCテレビ ドキュメンタリースペシャル#39】
参考記事
朝日新聞デジタル 2025/2/14付 刑務官苦悩、役割は距離感は 刑務所で再会、無力感抱く 更生へ、暴言に耐えながら