拉致調査中止 立ち止まらず次の対策を

「またか!」画面に表示された速報に、目を疑いました。拉致が外交のカードになるというのはこういう事かと、無慈悲な現実を目の当たりにした気分です。

「弱みを握っているぞ」と言わんばかりの恫喝です。北朝鮮が日本に対し、「拉致被害者らの再調査の中止」を一方的に発表しました。2014年の5月から、特別調査委員会を設置して拉致被害の解明に取り組むはずでした。しかしながら2015年の7月に報告を延期する旨の通知があり、雲行きが怪しくなっていたところ、今月の12日に再調査を中止すると通達してきたのです。先日のミサイル発射に対して日本が制裁を加える旨を発表したことへの対抗、という言い分です。日本政府は、2014年の合意を破棄することはせず、対話は続けるという姿勢を示しています。

北朝鮮の発表では、誰の言葉を信用すればよいのでしょうか。北朝鮮との交渉は官僚同士で行われてきましたが、特に交渉人の地位が重要であると言われています。今日の朝日新聞には、交渉相手である徐氏の地位に注目する記述がありました。彼が金正恩に近い人物なのか、十分検証できていなかったとの指摘をしています。2002年小泉政権下の交渉を記した、『外交敗北』(2006年6月、講談社)を読み返してみました。それまで窓口と思われていた北朝鮮の外交官が失踪し、交渉がストップしてしまう場面が描かれています。

では他にアプローチをかけるべき人物が北朝鮮にいたかというと、それも難しいようです。北朝鮮の国内政治金正恩総書記は、34歳と若く、経験不足が指摘されています。体制の確立のために、ミサイル発射をはじめとする様々な対外強硬策を取らなくては、国内に示しがつきません。中でも危険だと感じるのは、側近の処刑や行方不明のニュースが相次いでいることです。他国とのチャネルが多く失われてきました。たとえ北朝鮮である程度の地位を有する人が交渉に乗り出しても、もし結果が北朝鮮にとって好ましくなければ排除されてしまうかもしれません。そもそもそんなリスクをとる人物がいるのかさえ疑問です。国内レベルの問題が、官僚レベルで行われる交渉を本当に難しいものにしています。

拉致問題を取り巻く環境は相変わらず厳しいものがあります。自分なりに整理してみても、どこから手を付けて良いのか見当が付きません。私たちにできることは、問題提起をし続けることに尽きると思います。読売新聞に寄稿した二人の識者は、交渉継続の余地を否定していません。すでに機能を失った調査委員会よりも、新しい枠組みに期待を寄せる声もあります。次へ次へと対策を講じる、ある種醒めた態度が必要なのだと思います。

<参考記事>
2月14日付 読売新聞朝刊1面『拉致調査中止に抗議』
2月14日付 朝日新聞朝刊3面『拉致解決へ 日本手詰まり』

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