有力者とのつながりを持っており、ワンマン経営でスピード重視。剛腕経営者が示した巨額の支援は、小さな論点を吹き飛ばしました。「日本の技術力」という言葉は、ますます実質をなくしてしまいそうです。
シャープの支援をめぐる騒動に大きな動きがありました。鴻海の郭台銘氏がシャープ本社を訪れ、本格交渉に入ったと伝えられたのです。鴻海がシャープを手に入れた目的は推測するしかありませんが、「わが社ならば液晶産業から利益を生み出せる」という自信が見て取れます。しかし、経営体制の違いは無視できません。郭氏は効率第一の姿勢で、人員削減や事業の分割を恐れていたとはシャープとは正反対です。早速、業績の悪い太陽電池事業を分離する方針が発表されました。
さて、この件をめぐる報道で私が注目したいのは、「技術の流出」を懸念する声が下火になったことです。シャープの買収競争は、主に台湾の企業である鴻海と、日本政府系のファンドである産業革新機構との間で戦われてきました。支援額はもとから鴻海の方が大きかった(6000億円)のですが、1月下旬の紙面を見返すと、少額(3000億円)である産業革新機構の優勢が伝えられています。その強みは何であったかといえば、日本の組織なので先端技術が外国に流出する心配がないことでした。しかし7000億円という巨額の出資を前にして、6日の報道の論点が「シャープ社員の保護」や「事業の分割」に移ってしまった感があります。技術の流出については、読売新聞が経済面で少し述べただけでした。
これは、もうひとつの興味深い点と関わってきます。6日の朝刊はそろって「郭会長とは?」を伝えるコーナーを置きました。「こえ」や「顔」を除いて、全国紙が私人のプロフィールを伝えるというのは、そう何度もあることでしょうか?記憶する限りでは、ジョブズやイーロン・マスクといった卓越したリーダーの動向を伝える時以外にはありませんでした。それほど郭氏の訪問と支援額が劇的であったことを裏付けています。
企業は利益を追及するものですから、当然生き残りありきの戦略になります。ただ、私たちは「日本の技術力」という言葉を使う前に、もう一度その実質を考えた方が良いのかもしれません。あれだけ守ろうとしてきたものが、経営者の訪問と支援の増額だけで覆ってしまったのですから。
<参考記事>
2月6日付 日本経済新聞朝刊 3面『太陽電池事業は分離』
2月6日付 読売新聞朝刊 9面『シャープ再浮上なるか』
2月6日付 朝日新聞朝刊 1面『鴻海と本格交渉で合意書』