自分の出身地の「お宝」が、オリンピックに使われるかもしれない。他人事には感じられなくて、少しうれしくなってしまいます。一方で、五輪と自分との間にある微妙な距離感にも気づかされました。
2020年の東京五輪を機に、地方の名産品を世界に発信しようとする試みが広がっています。新潟県燕市は、金属洋食器を売り込み、選手村の食堂で使用してもらうことを目指します。漆の産地である岩手県二戸市は、メダルに漆を使うことを提案しました。すでに今年の6月に、オリンピックを通して特産品を活用したいと考える自治体が連合し、47都道府県の計350市町村が名乗りを上げています。「オリンピックを東京だけのものにするわけにはいかない。」新潟県三条市長の言葉には、この潮流を裏付ける心情が表れています。
さて筆者の地元なら、陶器か、それとも値段が上がってますます食べづらくなった鰻料理か。首長連合の名簿に市の名前があるのを見て、自分も参加している気分になりました。
少し考えたのは、「日本の」名産品に対しても同じ感情が抱けるだろうか?ということです。筆者は「地元の」お宝が出品されるかもしれないと知らされて初めて、参加意識と呼べるものを感じました。逆にそれまでは、かなり冷淡にオリンピックを考えていたと言えます。数多くのスキャンダルは、その祭典が自分のものではないという感覚を強めてしまいました。どこか遠いところで勝手に決まって、勝手に失敗しているイベントに見えました。
その点、今回の動きは、国民の心をオリンピックに引き戻す可能性を秘めていると感じます。今まで喜ぶ「べき」だと感じていたことが、市区町村のレベルに話が及んで初めて、やっと体験できる領域まで降りてきました。あなたの市区町村は、何を売り込むのでしょうか。少なくとも筆者は、慣れ親しんだ地元の「お宝」たちが評価されるのかどうか、気になって仕方がありません。
11月29日付 朝日新聞朝刊13版 1面『わが街お宝 五輪で輝け』