介護という現実

 突然ですが、皆さんは「介護」という言葉にどのようなイメージを持ちますか?「やりたくない」。「世話をしたくない」。大半の人がこう思っているかもしれません。しかし、高齢化が進む日本では、「介護」は我々若者層の間でも身近になりつつあり、もはや文句を言ったり、知らん顔をしていたりできる場合ではありません。

  昨日の新聞で介護の記事が目につきました。とくに注目したのは、息子が親を介護するケースが増えてきているということです。2013年の国民生活基礎調査のデータによれば、認知症を含む介護が必要な人と同居する主な介護者のうち息子は10.1%を占め、01年と比べて2.5ポイント増加していることが分かったのです。

  私も先日初めて「介護」を体験し、その大変さ、苦しさを味わいました。一週間前に私の祖母と叔母がフィリピンから来日しました。間もなくやってくる誕生日を一緒に祝うために来てくれたのです。久しぶりに見た祖母はとてもやつれていて、両足は骨のように細くなっていました。一年前に転んで大腿骨を骨折したため、立つのがやっとの状態でした。いざ一緒に住み始めると、祖母は「フィリピンに帰りたい」と泣きながら文句を言い、世話をしていた母と叔母が「大丈夫!」と何度も叫ぶように説得するのです。祖母の耳は弱っているので、大声で言わないと聞こえません。

  そしてある夜、叔母と母が買い物に出かけて、私と祖母が家に残りました。リビングで寝ていた祖母がトイレに行きたいというので、手伝いました。すると祖母が「あなたのお母さんはどこ?」と聞いてきました。私は一瞬当惑し、「出かけましたよ」と返しました。そしてトイレから戻ると再び「あなたのお母さんはどこにいるの?」と聞いてきます。祖母は認知症を患っていたのです。「出かけていますよ。もうすぐ帰ってきますからね」と返し、祖母を寝かせた後私はため息をついて部屋に戻りました。

  介護を初めて体験した私にとって、これ以上にない「重み」を感じました。「どうして母は、祖母を日本に連れてきたのだろうか」「私や私の母もいつかああなってしまうのだろうか」。色んな不安と不満が私の心を覆いました。ですが、それらの思いを心の中に留めて、笑顔で、9月の半ばまで日本に留まる母と叔母を手伝っています。

  この体験をしたことによって介護の大変さを肌で感じました。今後は祖母の介護を手伝いながら知識を学び、母が年寄りになった時に蓄えた知識を活かせるように努めたいと痛感しています。

 712日付 朝日新聞14版 社会39面 「母介護 息子の恩返し」


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