いつものように新聞を取ると、日付の下に小さく「母の日」と書いてありました。少し電話でもしてみようかな、と考えてみたりします。しかしながら、そんな気分に冷や水をかける見出しが視界に入ってしまいました。「業者が財産食い尽くす」,,,認知症の高齢者をターゲットに詐欺まがいの活動をしていた業者に対し、業務停止命令が出されたというものです。被害に遭い財産のほとんどを失ってしまった女性の部屋は、投資や社債、健康食品や化粧品などのパンフレットで溢れていました。
認知症の高齢者も含め、普段我々は多くのセーフティ・ネットに守られています。親戚は来てくれなかったのでしょうか。お隣さんと話したのはいつでしょうか。役所に相談に行ったでしょうか。手遅れになるまで全てが機能しないケースが実際に起こっている今、根底に立ち返って考える必要があります。
近所づきあいが希薄になっているという話題はもはや陳腐なものですが、そこに付け込まれる今回のようなケースが起こるところを見ると無視はできません。市区町村は地域の見守り活動や成年後後見人の活用も勧めています。ただ、これらはそもそも家族の間で十分なコミュニケーションが取れていれば起こりえない事態です。一緒に住んでいるなら変化がないかまめに確認する、遠く離れたところに住んでいたとしても、週に一度は電話で連絡する。このような家族による至極ありふれた心遣いが先立つことで、多くの被害を未然に防いでくれるはずなのです。
ただし孤立が問題になっているということは、以上のありふれた心遣いが満足にできていないということです。連絡を取ることが長年の習慣として定着していなければ、いざ危機に陥った時に家族の力を借りられないかもしれません。そこで、SNSを活用するなどして互いに自然に見守ることのできる仕組みを構築しておくのも一つの方法です。我が家では最近アプリのlineで家族の部屋ができ、たわいもないことを報告するような場になりました。家族の動向を表面的にでも見られるようにしておくことで、連絡する契機を作ることができます。
ちょうど今日、帰省した際実家に忘れてしまっていた電子辞書を郵便で届けてもらいました。母の日なのにしてもらうことばかりだなと思いつつ、つながりの強さを改めて感じます。母の日のプレゼントの一番人気は、意外にもカーネーションではなく、思いを綴ったメッセージカードであるようです。準備している人もそうでない人も、せっかくの母の日ですから一報入れてみてはどうでしょうか?感謝を言葉にして伝えることが、連絡を取り合う習慣作りのきっかけになるはずです。
<参考記事>
5月10日付朝日新聞朝刊(東京14版) 35面「認知症社会 業者が財産食い尽くす」