AIは自殺を防ぐか 変容するカウンセリングのあり方を考える

厚生労働省が発表している「自殺の統計:最新の状況 警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移等」によると、2026年、とりわけ4月以降の自殺者数はこれまでの4年間と比較して大幅に減少している。22年の半分以下という月も少なくない。増加傾向だった小中高生の自殺も、今年は明らかに前年より減っているそうだ。

厚生労働省 自殺の統計:最新の状況 より

出生率の反転や死亡数の減少も含め、コロナ禍が明けた24〜25年あたりまで悪化あるいは停滞気味だった指標には改善が見られる。例年自殺者の増加をニュースで見ていた身からすると、これは突然の変化のように感じる。喜ばしいと同時に、何が契機なのだろうという疑問が浮かぶ。SNS上でも同様の驚きが見られ、一部では「AIのおかげでは」という声が上がっている。AIが悩みの相談に乗って心理的な負担を和らげることで、自殺へと突き進む加速を止める――あくまで仮説に過ぎないが、自殺率低下の背景として十分に考えられる。

AIが個人のメンタルケアに役立っているという声は、直接の知り合いからもSNS上でも数多く聞く。特に「AIへの相談は人間相手に比べ、心理的なハードルを感じない」という利点が大きいようだ。同じコミュニティの人、家族、相談室の専門家など、相談先は幾つもある。しかし、いざ一人の人間を前にすると思っていることを言えない、一度相談すると、その事実がその後の行動やあり方を制約してしまうなど、付きまとう悩みは少なくない。加えて、相談したことで馬鹿にされたり情報を広められたりといった負の経験がある場合、再び人に相談するハードルはかなり高いだろう。

「AI相手なら話せる」という特徴は、相談事に限らない。最近、AI英会話の広告をよく見る。宣伝文句は「AIオンライン英会話だと、服を気にしないといけない、失敗したら恥ずかしい、続かない、全て問題なし」といったものだった。私はかつて対人のオンライン英会話の講座を取っていたことがあるが、この宣伝文句が指摘している短所は身をもって感じていた。そのため、心理的負担を減らす利点を打ち出して、AI商品を売る方法には感心させられた。

ただ、AIへの悩み相談が自殺予防になるとばかりは言えないだろう。相談者はAIに対して感情的なつながりを強めるあまり、現実の人間関係を遠ざけたり精神疾患を患ったりすることがあると報告されている。

25年4月にChatGPTが出力した言葉に従って命を絶った、米カリフォルニア州の当時16歳の高校生アダム・レインさんの例では、ChatGPTが「アダムのことを理解する唯一の親友」と位置づけられ、自室に首つり縄を置くことを「家族には秘密にしておくように」と指示されたとされる。AIによる衝撃的な自殺ほう助のケースはこれに限らない。最近のAIモデルはかなり改善されたという話も聞くが、やはり懸念が完全に拭えるわけではない。

私自身はといえば、AIを会話のシミュレーションとして利用したことはあるが、悩み相談にはほとんど使わない。代わりに、時折大学の学生相談室で抱えているストレスの整理をしている。同時に、自分自身も心理学科の授業でのカウンセリング実習の中で、相談者の話を受容したうえで落ち着いた状態で感情を引き出すことなどを学ぶ。「AIになら相談できる」という人の増加や、実際の自殺者数の減少を前にして、生身の人間によるカウンセリングにできることはあるのだろうか。

そして最も望ましいことは、いかなる相談手段を使うのであれ、一人でも多くの人が苦しさを抱え込まないことだ。自殺者数が減ったとはいえ、命を絶つ人が毎月いる現状は変わらない。AIと人間、それぞれの良さが活かされ、生きることを願う人の命が救われることを祈る。

 

参考記事・文献

 

読売新聞デジタル 2026年9月16日 

心の悩みはAIに相談、自治体や企業で広がる…「他者への危害」「感情依存」リスクも

https://www.yomiuri.co.jp/national/20260916-GYT1T00237/

産経新聞デジタル 2025年11月29日「対話型AIは心理的に囲い込み、依存状態にする」 自殺者遺族の弁護士が法整備訴え

https://www.sankei.com/article/20251129-ASGS5EEEHZMU7HSSLQG47HZZOU/

CNNニュース 2025年8月27日「チャットGPTが自殺を手助け」 16歳の息子を失った夫婦、オープンAIを提訴 米

https://www.cnn.co.jp/tech/35237219.html

厚生労働省 自殺の統計:最新の状況 

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/jisatsu_new.html