なかなか見えない「子どもと貧困」の問題

「子どもと貧困の問題をなくしていくには、社会の構造を変えることが重要なのではないか」

 

大阪府箕面市塾「あっとすくーる」を運営している渡剛さん(37)にお話を伺いました。生徒の8割から9割がひとり親家庭の子供で、渡さん自身も未婚の母子家庭で育ったそうです。

 

この記事は全2回を予定しており、今回は「子供と貧困」という問題について、次回は渡さんの活動について掘り下げます。私自身、ひとり親家庭で育ったことから、大変関心のあるテーマの一つでした。

 

まず、ひとり親家庭の現状についてデータを見ていこうと思います。2021年の調査では、母子世帯は119.5万世帯で父子世帯は14.9万世帯。際立つのは母子家庭の収入の低さです。総所得の平均は328万円と、児童のいる世帯全体(785万円)より42%少なくなっています。そのためか、日本のひとり親家庭の相対貧困率は48.1%と、G7各国の中で最低の水準となっています。ちなみに、相対貧困率とは、その国や地域の生活水準(所得中央値)の半分に満たない世帯で暮らす人の割合を指します。

 

子ども家庭庁 「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」、ひとり親家庭の主要統計データ

 

実際にどのような問題があるのでしょうか。本来、子どもは生まれ育った環境や収入に関わらず、将来の夢に挑戦する機会は平等に与えられるべきです。将来のチャンスを自分のものにするため、勉強は大変重要です。そこで、生徒の中で、成績が上がる子の特徴について聞いてみました。

 

まず、「やればできる」という経験をした子どもです。しかし、「やればできる」という経験はお金で買うものだと渡さんは指摘します。確かに、習い事などはレッスン料、道具代などがかかります。等価世帯収入(世帯の人数をもとに算定される収入基準)が中央値の2分の1という世帯の子どもの23.8%が学外活動に参加できていないというデータもあります。経済力に不安のある家庭の子どもにとって、多くの成功経験を積むのは難しいのが現状です。

 

次は、親の子どもへの関心の強さです。子どもの勉強や成績に関心があり、面談などにもよく出席する家庭では、成績が上がりやすい傾向にあると言います。ひとり親家庭の親の約87%が職を持っており、十分に子どもとの時間を取れない家庭も少なくありません。特に、シングルマザーの場合、夜や週末働けないと働き口の選択肢が一気に狭まるといった指摘もあります。

 

そして幼少期の心の傷が少ないことです。家庭内暴力があり、離婚に至った家庭や、親にあまり面倒を見てもらえなかった子どもは、長期にわたり、心の傷に悩まされることも少なくありません。実際に、シングルマザーで鬱になる人の割合は、平均の23倍で、その子どもが鬱になる人の割合も同様だという調査結果もあります。

 

先ほどの成功体験と重なる面もありますが、教育に使えるお金がどれくらいあるか、子どもの将来に直結します。

 

「塾は贅沢だ」と言われるかもしれませんが、都市部では塾は必需品だと、渡さんは語ります。ほとんどが通い、そこでコミュニティもできます。塾に通えないと仲間外れにされることもあるそうです。もちろん塾に行けないということで勉強についていけなくなり、苦手意識を持つ可能性も高いです。

 

受験生になれば、お金がなければ受験校を減らさざるを得ません。例えば、大学受験は一校あたり2万円から3万円ほどかかります。そのため、絶対受かると思えるレベルの高校、大学を優先してしまい、自分の行きたい学校や将来に挑戦できないことも多くあります。さらに、何校も受けている友人を見て、「うちは母子家庭だから」と自分の将来を悲観的に見てしまうこともあります。

 

ひとり親家庭の子どもに対する教育費が少ないという事実は、養育費受け取割合に深く関わっています。2021年の調査で、実際に受け取っている母子世帯の割合は28.1%でした。日本では養育費が受けられなかったとしても、泣き寝入りせざるを得ない状況であるのに対し、多くの国には特別な制度や仕組みがあります。

 

例えば米国では、すべての州で、養育費の給与天引きなどが行われています。かなり強力な制度だと言えますが、それでも実際に徴収できているのは6割ほどだそうです。スウェーデンでは、養育費が払われない場合、社会保険事務所に申請すれば立て替え払いしてもらえます。そのおかげで、ほぼ100%徴収しているそうです。

 

「日本の社会構造が問題なのでは」と渡さんは指摘します。日本での一人親家庭の就業率は世界的に見ても高いです。それでも貧困から抜け出せません。その理由は、非正規雇用が多いからだといわれています。大切なのは、子育ての制約で夜間や休日に働けなくても選択肢がような多様な働き方の整備を進めることです。

 

非課税世帯だと、補助金や奨学金など多くの恩恵を受けることができます。ただ、母子家庭では世帯年収204万円以下でなければ認められません。そのために働き控えをする人や、基準額を少し超えたために補助金を減らされる人もいます。この204万円という基準は妥当なのでしょうか。

 

「今よりも児童扶養手当の金額を増額したり、所得による基準を緩和したりするなど、これまで以上に保護者の頑張りが報われるような制度設計があれば」と渡さんは語気を強くします。

 

未来を担う彼らに、教育の機会を十分に与えることが日本の未来につながるはずです。日本財団子どもの貧困対策チームは、子どもの貧困を放置した場合の社会的損失について、2015年12月に推計を出してい。貧困世帯の子どもの進学率や中退率が改善された場合に比べ、現状のまま放置されると生涯所得は約43兆円、財政収入は約16兆円少なくなるそうです。

 

物乞いやストリートチルドレンなどが街にいて、貧困が目に見えるような途上国と比べ、日本社会は目に見えにくい貧困が潜んでいます。それゆえ、語られにくく、解決されにくい問題ですが、子どもたちのため、日本の未来のため、もっと目を向けるべきではないでしょうか。

次回は「あっとすくーる」での活動について、報告します

 

参考資料

日本財団ジャーナル 「ひとり親家庭の貧困率は約5割。子育てに活用できる国や自治体の支援制度」

ひとり親家庭の貧困率は約5割。子育てに活用できる国や自治体の支援制度 | 日本財団ジャーナル 

朝日新聞取材班 「子供と貧困」2018

子ども家庭庁 「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」

資料_こどもの貧困対策・ひとり親家庭支援の現状について