迫られる多文化共生ーヒントはどこに?

2026年3月 筆者撮影

 

本稿は、4月27日に掲載した「【前編】迫られる多文化共生―ヒントはどこに?」の続きです。前回は、日本の移民問題の現状について述べています。筆者は、移民問題を解決するヒントが、シンガポールにあるのではないかと考えています。詳しくは、下記のURLからご覧ください。

allatanys.jp/blogs/29860/

 

筆者がシンガポールを訪れて何よりも驚いたことは、非常に多様な人種の人々が、調和的に暮らしていたことです。みな異なる文化や宗教、食習慣を持っているにもかかわらず、なぜ共生できているのでしょうか。

 

考えられる要因は、大きく分けて3点あります。

 

第1に、厳しいルールの存在です。安定した治安と良い衛生環境を保つため、様々な法律が厳格に執行されています。よく知られているのが「チューイングガム」の禁止です。これは、ポイ捨てされたガムの除去に莫大な費用がかかっていた上、過去にガムにより電車の扉が故障したことから決まったそうです。他にも珍しいルールがいくつかあります。「公共交通機関内での飲食禁止」、「ゴミのポイ捨て禁止」、「つば吐き禁止」、「トイレの流し忘れ禁止」は日本にはありません。「家の中で裸でいること」を禁ずるという大きなお世話と言いたくなるような規則もあります。騒音や飲酒、喫煙に関しても、厳しいルールがあります。

違反すると、非常に高額の罰金が課せられます。例えば、ガムを国内に持ち込んだ場合、最大で1万シンガポールドル(日本円で約124万円)に加え、懲役1年が課せられます。麻薬に関わると、死刑になる可能性もあります。また、ゴミのポイ捨てで摘発されると、罰金だけに終わらず、地域の清掃活動に奉仕しなければなりません。彼らは黄色いベストを着て清掃することを強制されるため、一目で分かるそうです。

また、公共の場での言動に対しても厳しく取り締まられています。「民族調和維持法」では人種差別を強く禁じ、罰金だけでなく実刑も定めています。人種間の対立や衝突を引き起こす可能性のある表現物は処分を受けます。言論の自由は厳しく制限されるわけです。

 

第2に、シンガポール人としてのアイデンティティの育成です。市民の大半は、外国から移住してきた人です。かつてこれらの人々は、自身の出身国を母国とみなしていました。このため、人種間の暴動が起こる危険性が非常に高かったのです。実際、シンガポールは1964年にマレー人と華人の間で起こった暴動で大量の死者を出しており、これがきっかけとなってマレーシアからの分離独立をはたしました。

そこで、学校教育を通じてナショナリズムを確立する政策がとられました。生徒は毎朝、国旗掲揚と国歌斉唱に続いて「国民の誓い」の言葉を唱えます。これは、「人種、言語、宗教に関係なく」国民が団結することを説いています。

 

ナショナリズム教育を通じて国民を1つにまとめようとする一方、多文化尊重の姿勢も忘れていません。それぞれの文化や宗教、食習慣を尊重する政策が、数多く見られます。

まず「言語」に関して、各民族はそれぞれの言語を学ぶことができます。公用語は英語、国語はマレー語と定められ、実際には英語による普遍的な教育を提供しています。加えて、中華系なら標準中国語、マレー系ならマレー語、インド系ならタミル語というように、各々の民族の言語を学ばせています。

多言語で書かれた標識、2026年3月 筆者撮影

次に「宗教」に関して、信仰の自由が保障されています。仏教、道教、ヒンドゥー教、イスラム教、キリスト教など、実に多様な宗教の施設が点在しています。各民族の祭典は祝日となっています。「宗教調和維持法」では、宗教の調和を乱す行為や対立を生む行為が禁止され、多宗教間での交流が推進されています。

筆者はイスラム教のお祭りである「ハリラヤ」を見学しました。イスラム系の人々だけでなく、中華系やヨーロッパ系など様々な人々が来ていたことが印象的でした。

ハリラヤの様子、2026年3月

「食」に関しても、それぞれの食習慣を尊重する姿勢がみられます。「ホーカー」と呼ばれる、政府管理の屋台が集まる市場があります。ユネスコの無形文化遺産に登録されていて、安くておいしいローカルな食事を楽しむことができます。

筆者がホーカーを訪れて特に印象的に感じたことは、イスラム教徒が口にできるハラールと非ハラールとで食事する場所を分けていないことです。食器の返却場所こそ別々ですが、食べる場所は同じです。大学の食堂も同様で、ハラールを食べる学生とそうでない学生が会話を楽しみながら食事をしていました。

 

ホーカーの様子、2026年3月 筆者撮影

 

多民族間を分離させず、共生させる取り組みは、他の政策でも見つけることができます。例えば、シンガポール人の多くが暮らす公営住宅では、同じ民族が集団で住むことが認められません。また、兵舎の部屋割りは、異なる人種同士になるように配慮されています。1つの民族が固まって暮らすことを避けることで、多民族間での交流を促進しているのです。もちろん、それぞれの民族が集まることを禁止しているわけではありません。実際、公営住宅の近くには各民族のコミュニティが存在します。

 

このように多様な文化を尊重しつつも、シンガポール人としてのアイデンティティを育てることで、民族間の協調を図っています。また、厳しいルールを敷くことで社会の秩序の安定を図っています。シンガポールと日本の移民政策の違いの根底には何があるでしょうか。厳罰主義のシンガポールには批判もありますが、日本がシンガポールから学べることもありそうです。

 

【後編】に続きます。5月下旬に更新予定です。

 

〈参考〉

・自治体国際化協会 シンガポール事務所「シンガポールの民族融和・多文化共生政策について

https://www.clair.or.jp/j/forum/pub/docs/423.pdf

・WEEKLY SingaLife「【最新版】知らないと罰金? シンガポールの厳しいルール&禁止事項まとめ」

https://singalife.com/category/58335/

・Spring シンガポール教育情報「第27回 毎朝の国家斉唱と『国民の誓い』」

https://www.spring-js.com/singapore/column/4011/