「外国人は日本から出ていけ」「外国人が日本の治安を悪くしている」と、排外的な主張が目立つようになった今日。SNS上ではそんな主張が何千万回も閲覧され、「外国人への対応」について多くの人が話し合うようになった。
パキスタンからの移民の多い大阪府西淀川。駅から5分ほど歩くと、急に異国情緒あふれる街になる。
ここには、2024年時点で100人ほどのパキスタン人が住んでいる。大阪府内に3つしかないモスクのうちの1つがあり、「パキスタン料理」や、「ハラールショップ」が多くある。筆者が通う大学のインド人やパキスタン人の先生はよくここを訪れ、故郷の味を楽しむそうだ。
読売新聞の記事によると、去年6月、地区内の神社でボヤがあり、Xで「犯人はイスラム教徒で『邪教だから火をつけた』と供述」との情報が拡散された。「多文化共生など無理な話」との投稿とともに約500万回表示された。複数の住民の証言や大阪府警西淀川署の調べによると、ボヤの原因は日本人と外国人の小学生数人の火遊びだったそうだ。
8月末には、地区内を大勢の外国人が行き交う動画とともに英語で「こんなにひどい状況」とXに投稿され、1600万回近く表示された。日本語で「侵略者だ」「追放して」などのコメントが付いていたそうだ。
今の西淀川の実情はどうなのだろうか。筆者はウルドゥー語(パキスタンの国語)を専攻している友人らとともに、話を聞きに行った。
まずは腹ごしらえから。「大阪ハラールレストラン」に入った。ビリヤーニー(スパイスで味付けされたチャーハンのようなもの)とマトンカレー(羊肉)にチキンカレー、そしてナーンを頼んだ。値段は3人で3600円ほど。どれも料理全体に肉の旨味が出ている。もちろん肉は口の中でとろけるほど柔らかい。少々油っぽく、胃もたれしそうだが、ライタ(ヨーグルト)と一緒に食べるか、ラッシー(甘いヨーグルトの飲み物)を飲むかすればすっきりする。食べる手が止まらない。ムスリムが多い国では、肉の調理方法が本当に上手く、それを胃もたれせずに食べさせる工夫をしているんだと再認識した。
腹ごしらえの後、モスクの一階にあるハラールショップを覗いてみた。スパイスやナーンを作るための粉、お茶の葉、お菓子などが売っている。どれも「ハラールマーク」がついている。
店番をしていた、アブドゥル・カーディルさんにお店のことを教えてもらった。イスラム教で、「ハラール」はしても良いこと、「ハラーム」はしてはいけないことだそうだ。だから、「ハラールマーク」の商品は買って食べても良いということになる。「通常のコンビニやスーパーでは、ハラールマークがついていないから、野菜くらいしか買えないんだ」と話す。
彼は日本に来てまだ4カ月。一番難しいことは日本語だと話した。給料が良いため、家族をパキスタンに残して来た。
店を出てから、通りを歩いていた男性に話しかけた。ムハンマド・ウメールさん(41)。日本に来て17年だそうだ。日本語はペラペラ。パキスタンの大学で日本語を勉強した後、日本の大学に入り、今はシステムエンジニアとして働いている。週に1回ほど西淀川を訪れるそうだ。
SNSでの排外主義のことについて尋ねると、「ここ2年ぐらいで増えた。でも、排外的な主張をする日本人が悪いだけではない」と話す。詳しく聞くと、パキスタン人にも道で煙草を吸うなど、ルールを守っていない人がいるからだ。途中で、大音量で音楽を流す、パキスタン人が乗る車が通った。「だから、パキスタン人も日本に住むなら日本のルールを守るべき」だと話す。一方、一部のルールを守らないパキスタン人がいるために、全体が悪いとみられるのは違うと思うと主張する。
話がひと段落ついたところで、モスクの中に入ってみることにした。お祈りする場所は男性と女性で違う。世界には、女性がお祈りする場所のないモスクもあるそうだ。家の中にいることが多く、モスクに行く女性が少ないからだそうだ。たしかに、「女性は外に出てはいけない」という考えで学校に行けない女性、働けない女性がおり、「女性差別の宗教だ」と言われることもある。
しかし、イスラム教は「女性に優しい宗教だ」という意見もある。ある意味ではそうなのかもしれない。というのは、ブルカ(女性が体を覆うスカーフ)などを着るのは女性を男性から守るため。そして、家の中にいることが多かったり、男性専用と女性専用の場所が区切られたりしているのも女性を守るためだそう。ムスリムの女友達は、父、兄、弟、夫など、家族の男性は自分に対して、本当に優しく丁寧に扱い、過剰なほど気遣ってくれるそうだ。そして、それは彼女の家庭だけでなく、ほかの家庭でも同じだという。
脱線したが、モスクにはクルアーン(俗に言うコーラン)の一部が日本語訳された紙などが置かれていた。頭を覆い隠すスカーフも借りれるそうで、ムスリムでない人にもとてもオープンだ。中の写真は撮れなかったが体を洗う場所や、お祈りの時間が表示されている時計があり、絨毯がひかれているなど、通常のモスクとほとんど変わらなかった。
モスクを管理する人にも話を聞いた。金曜日(集団礼拝の日)には数百人が集まるそうだ。その中に日本人ムスリムは10人ほど。パキスタン人だけでなく、インドネシア人やバングラデシュ人なども来る。その日はウルドゥー語、英語、日本語の3言語でイスラム教の講話がある。そして、多くの人はお祈りの後、前にあるレストランでご飯を食べるらしい。
昔は24時間開いていたというモスク。しかしながら、酔っぱらった日本人が無断で侵入したり、住居を持たない外国人が泊まったりして管理が大変だったこともあり、夜10時には閉めるようになった。
最後に、気になっていた土葬のことについて尋ねた。モスクを管理する人と先ほどのウメールさんは、火葬はハラームなので、土葬をしたいと話す。海外に住んでいて死んだら、母国に遺体を送るのは腐るし、お金もかかる。できればその国でと話す。
唯一神を信仰するイスラム教。八百万の神がいるし、仏教の寺にもお祈りするという日本人にとって、たしかに理解しにくい。しかも、ニューヨークでの9・11テロから、メディアは「ムスリムは悪だ」というイメージをつける報道をするようになったとも言われている。イスラム教は「女性差別の宗教」や、「テロリスト」「原始的」というイメージは、作られたものなのかもしれない。チャーイを飲みながらゆっくりと話を聞けば、知らなかった側面に触れることができるのではないだろうか。
参考文献
万博とは異なる景色広がる「ニシヨドスタン」、多くのパキスタン人が住む地域を記者が取材…対立あおるSNSの誤情報:地域ニュース : 読売新聞


