部活動の現場で、生徒の問題行動や人間関係のトラブルはあとを絶たない。こうした課題に向き合うには、「キャプテンに何ができるか」と「指導者はどう動くべきか」という二つの視点から整理する必要がある。
まず、キャプテンの役割についてである。
筆者はキャプテンが競技力と同等に、対人関係の問題解決能力を備えることが重要であると考える。問題を起こす生徒に対して最初に取るべき行動は、なぜその行動を繰り返すのかという「原因の把握」だ。多くの中高生は多種多様な悩みを抱えており、その深刻度も人によって異なる。頭ごなしに注意するのではなく、まずその生徒が何に苦しんでいるかをキャプテン自身が理解することが、問題解決の出発点となる。
では、悩みを把握した後、キャプテンはどう動くべきだろうか。
筆者は適切な相談相手にたどり着けるよう、キャプテンが橋渡しをすることが重要であると考える。注意しなければならないのは、悩みの対象がキャプテン自身や指導者であるケースだ。ストレッサーとなっている人物への相談を促せば、問題を抱えている生徒の「不適応症状」をかえって悪化させてしまいかねない。悩みの種類に応じて相談に乗る人物を変えるという視点は、生徒の心理的安全を守る上で欠かせないのではないだろうか。
さらに、当該生徒の許可を得た上で悩みの一部を部内で共有し、チーム全体でその生徒を支える環境を整えることも、キャプテンに求められる重要な働きかけである。これが実現すれば、生徒本人だけでなく他の部員の精神的成長にも良い影響を与えうるだろう。
では、指導者はどうあるべきか。その問いを考えるとき、筆者自身の高校時代の経験が頭をよぎる。
高校時代、水泳部でマネージャー兼選手という立場にあった。チームの運営を内側から支えながら、自ら競技者として練習に取り組む日々の中で、一つの後悔が今も残っている。指導者に対して、一度も自分の意見を言えなかったことだ。言うべきことはたくさんあった。指導者や先輩の指導内容への疑問や部内の人間関係への不安、マネージャーとしての役割への悩みなど。しかし指導者の存在を過度に恐れ、言葉を飲み込み続けてしまった。当時の筆者は、そうした沈黙が自分だけの問題だと思っていた。だが今振り返れば、意見を言えない空気は、指導者側の関わり方にも一因があったのではないかと思えてならない。
筆者は指導者が生徒の主体性を引き出す関わり方を徹底することが重要であると考える。人間関係のトラブルを抱えた生徒に向き合う際、指導者はまず話をじっくりと聞き、相手の立場に立つことが求められる。問題のある行動にも生徒なりの事情があると想定して対応することで、表面的な指導を超えた本質的な問題解決へと近づくことができる。
そして指導者が与えるべき助言の一つが、「相手を変えようとしない」という考え方だ。相手を変えるより自分が変わる方が遥かに現実的であるという鉄則は、部活動の場を超え、社会に出た後も繰り返し役立つ人生の指針となりうるだろう。
では、こうした個別対応を超えた、部活動全体の環境はどう整えるべきだろうか。
「ボトムアップ理論」に基づいた指導設計が、今の部活動に最も求められているものの一つであると考える。指導者が答えを与えるのではなく、生徒自身に考えさせることでチームをつくっていく手法である。最初は生徒も指導者も戸惑いを覚えるが、互いが我慢し信頼し合うことで、やがて生徒は自律的に動くようになる。しかし、指導者と生徒のコミュニケーションが途絶えることは分断を招くため、定期的に部員らの意見を取り入れる場を設けることが不可欠だ。
また、生徒のモチベーションを高める上で見落とされがちなのが、言葉かけの質である。批判や叱責が続けばやる気は削がれる。賞賛や激励を意識的に増やすことで部全体の雰囲気は確実に向上する。自分の一言が生徒のポテンシャルを引き出せるかどうかを左右するという事実を、指導者自身が深く自覚することが求められるのではないだろうか。
こうした現状を踏まえれば、部活動に関わるすべての大人が「正しい方法」を学び直す機会を持つことが急務であると言えるだろう。キャプテンが仲間の悩みに誠実に向き合い、指導者が生徒の主体性を尊重した上で適切な助言を与える。そのような部活動の文化を育てることこそが、問題行動の根絶につながる道であり、ひいては日本のスポーツ界全体の指導風土を刷新する第一歩となりうるのではないだろうか。
参考記事:
・2026年5月15日付 讀賣新聞(朝刊)(東京) 21面 「わいせつなど5人懲戒免」
・2026年5月26日付 朝日新聞(朝刊)(東京) 12面 「指導はかけ算 「情熱×正しい方法」」
・2026年6月2日付 朝日新聞(朝刊)(東京) 24面 「広陵高校側の対応問題視」
・2026年1月28日付 日経電子版 「桑田真澄氏が説く指導者の意識変革 勝利至上から人材育成主義へ」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODH261XC0W6A120C2000000/