港区・三田は、近代的な高層ビルやオフィスが立ち並び、足早に人々が行き交うコンクリートジャングルの街です。そんな中、突如として異彩を放つコンクリートの建築物が現れます。建築家・岡啓輔氏と多くの仲間が20年の歳月をかけて造り続けてきた「蟻鱒鳶ル(ありますとんびる)」です。今年の春頃、ついに完成を迎えました。
「三田のサクラダ・ファミリア」とも呼ばれるこのビルで注目したいのは、設計から施工まで、すべてを自らの手で行う「セルフビルド」で造られたことです。効率が優先されがちな現代において、住まいを一から自分の手で作るという究極のDIYは、より魅力的に映ります。
一般的に建築は、芸術作品の中でも命が短いと言われています。建築家・内藤廣氏が指摘するように、現代の建築は資本主義の中で、使い捨てのものとして消費されています。中でも、戦後日本の昭和に造られたコンクリートの近代建築は、「スクラップ・アンド・ビルド」が前提となっており、名建築を含む多くの建物が30年、50年の時を経て既に解体の時期に入っています。
一方で、蟻鱒鳶ルを形作るコンクリートは異なります。岡氏がこだわるのは、水分を極限まで減らしたセメントを、高い粘度で練り上げる手法です。この緻密な工程を経ることで、コンクリートは200年以上もの耐久性を持つと、専門家からもお墨付きを得ているそうです。一つ一つの表面を見ると形や模様が異なり、作り手のこだわりや愛着が伝わってきます。
セルフビルドとは、自身の哲学や美意識を手作業を通して形にする行為です。その過程で生じる失敗や試行錯誤すらも、すべてが制作の痕跡として建築に刻み込まれていきます。ただ消費されるための無機質な建物ではなく、作り手の唯一無二の記録となるのです。
「安く、早く、大量に」。そんな価値観に縛られた消費社会に一線を画し、蟻鱒鳶ルは三田の街に佇んでいるように見えました。この不思議な名前の最後の「ル」は、ル・コルビュジエから取られています。国内外の17点もの建造物が世界遺産に登録されている巨匠です。彼が切り拓いたコンクリート建築は、皮肉にも現代において早く安く作れる反面、短命なものになってしまいました。200年残る無骨で温かなコンクリートは、私たちに今後の建築の在り方を問いかけています。
参考記事
・2026年4月28日付 朝日新聞デジタル 「「三田のサグラダ・ファミリア」完成 手作り20年、100人の輪で 手で築いて20年、人生も仲間も 東京・三田のサグラダ・ファミリア…? 「蟻鱒鳶ル」」https://digital.asahi.com/articles/DA3S16453363.html
・2026年4月19日付 読売オンライン 「[社会科見学のススメ]東京のサグラダ・ファミリア」https://www.yomiuri.co.jp/life/20260418-GYT8T00043/
・2025年4月15日付 日経デジタル 「「東京・三田のサグラダ・ファミリア」着工20年、理想のビル」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD133RC0T10C25A2000000/?n_cid=dsapp_share_ios
参考文献
・内藤廣「戦後50年で固まった建築をやわらかくする糸口」https://www.jafra.or.jp/fs/2/4/9/1/0/_/01_2.pdf
