※この記事は映画『いまを生きる』の内容を含みます。
新学期、新生活も近づき、期待と不安で胸が一杯になる季節。新しい出会いや環境に戸惑い、頭を悩ませることも。筆者も4年前の4月、大学に進学し、初めての1人暮らしに当初は寂しさを感じたものです。そして、今回で最後の投稿となるあらたにすでは、1年前の4月、記事を書く機会をいただき心を躍らせた反面、筆者が人に読んでいただくような文章を書けるのか不安でした。しかし、新たな環境や土地に足を踏み入れることで、人だけでなく沢山の言葉との出会いもありました。筆者が旅先で知ったのは、ラテン語のCarpe diem (カルペ・ディエム)。日本語では「いまを生きる」、「その日を摘め」と訳されます。
Carpe diem(カルペ・ディエム)
“ホラティウス『歌集』の言葉。「自分たちにどのような最期が待っているかを知ることはできない。何が起ころうとも、それを受け入れる方がよい。長い希望を短い時間によって切り分けなさい。くよくよ考えているうちにも時間は逃げて行く。次の日をできるだけ当てにせず、一日を摘み取れ(その日を楽しめ)。」と説く。” (奈良県立図書情報館資料。研究社『ラテン語名句小辞典』より)
この言葉との出会いは、2年前の交換留学からの帰路、フィンランドの首都ヘルシンキでのことです。
海沿いのサーモンスープ店で1人で食事をしていると、目の前に座っていた初老の地元の男性がどこから来たのかと声をかけてきました。筆者が日本出身と伝えると、お子さんに日本人の友人がいるらしく、日本に好印象を持っているようでした。しばらく話した後、男性が去り際に1つ言葉をプレゼントするよと言い、その時に貰った言葉が Carpe diemでした。当時、帰国後に待ち受けている就職活動や将来の進路への不安で一杯だった私に大きく響き、それ以降、座右の銘となりました。今をしっかりと見つめ、自分自身に正直に目の前のことに全力で挑む勇気をくれる言葉です。
この言葉は1989年公開の映画「いまを生きる(原題:Dead Poets Society)」で、繊細で複雑な若者たちの生き様とともに描かれています。アメリカの伝統や規律に縛られた名門校で過ごす学生たちのもとに一人の新任教師ジョンがやってきて、Carpe diemという言葉が贈られました。親の期待、社会の規律と自分自身の思いの間で揺れる学生たち。その中でも筆者が印象に残った2つの「いま」を生きる登場人物がニールとトッドです。当初、ニールは厳しい父親を持ち、演劇への思いを封じる優等生、トッドは内気で自分の思いを口に出す勇気がない学生でした。教師との出会いを機に、ふたりはそれぞれの「いま」を生き始めます。
ニールは父親の反対がありながらも1つの舞台をやりきった後、父親に将来を決められ、「いま」の思いを伝えられることなく、命を絶ってしまいます。いまを見つめ、やっと踏み出した一歩を阻まれ、自らができる限りのいまはやりきったと終止符を打ってしまう、そんな彼の姿にいまを真摯に見つめることの難しさ、怖さを感じると同時に、若さゆえの純粋さ、素直さが「いまを生きる」という言葉に向き合い、飲み込んでいく過程でその言葉が後ろ向きに働きうるとも感じました。
トッドはニールの訃報に一番動揺し、衝撃を受けていた姿が描かれ、内気で不安げながらも常に「いま」起きている出来事に向き合っているようでした。そして、ニールの行動を助長するような言葉を教え、指導をしてきたと非難を浴びた教師ジョンが学校を去るときに「彼の責任ではない」と他の教師や学生の前で声を上げます。ニールの死に困惑し、責任転嫁に走り、今を見つめることができなくなった周囲の人々とは対照的に、悲しさや衝撃を受け入れ、いまを見つめるトッドの姿が印象的でした。
この映画を通して、「いま」は思う以上に貴重であると同時に、儚く、周囲の環境や意見に流され真摯に向きあうことが難しくなると考えました。それとともに客観的な立場に立てたなら見つけられるはずの自分自身の「いま」は見過ごされていることが多いのではとも思います。また、人それぞれの人生には様々な選択や生き方があり、自分の思い描く「いま」は簡単にわかるものでもないし、決めつけられるものでもないでしょう。
筆者はまだ22年しか生きていませんが、20代なりに沢山の選択と出会いがありました。まだまだ不安や緊張で挑戦できないことも多いですが、「いま」に向き合い、自分が惹かれるもの、挑戦したいことを見つけ、留学やあらたにすという貴重な経験をすることができました。いまを見つめるきっかけをくれた出会いと、筆者の見つめた「いま」に大切な機会を用意してくれた出会いに心より感謝しています。
参考資料:
ディズニー公式 いまを生きる
https://www.waltdisneystudios.jp/studio/others/0162
奈良県立図書情報館 資料 研究社『ラテン語名句小辞典』
