どうなる放送事業

ルールはときに窮屈なものですが、それがあるから安心できるという側面もあります。

いま、放送事業で大きな改革が進められようとしています。読売新聞の記事によると、安倍首相が検討している事業見直し方針のポイントは次の4つです。

①放送と通信で異なる規制・制度の一本化
  ②政治的公平性などを求める放送法の規制撤廃
  ③民法の放送設備部門と番組制作部門の分離の徹底
  ④NHKによるインターネット同時配信の本格化

これに加え、海外勢が参入しやすいように外資規制の撤廃も検討しているとみられています。

③の放送設備(ハード)と番組制作(ソフト)の分離は、以前から議論されていました。テレビ局は自前の鉄塔やアンテナ、送信機などの放送設備を持ち、番組制作もしています。ハードへの投資には巨額の費用がかかることから、新たに参入しにくい状況があります。現在検討されているのは、この二つの部門を分離し、さまざまな事業者がテレビ局の放送設備を共有できるようにすることです。

これには概ね賛成です。面白いコンテンツ、というより自分が見たいコンテンツにふれる機会は格段に増えると思うからです。YouTubeもAbemaTVも、数あるチャンネルの中からユーザーが気になったものを選んで楽しむことができるサービスです。自分の好みを一段と重んじるようになっている私たちは、選択肢が多ければ多いほどうれしいのです。

一方、記事では、災害や有事の際に二つの部門の連携がとれなくなり、迅速で機動的な報道に支障が出る恐れがあることに加え、報道機関ではないネット事業者の番組放送時に災害が起きた場合、緊急報道体制を敷くことができるのか、という指摘があります。これには緊急時に限ったルール決めや、ネットテレビにおける報道体制の強化で対応できないものかと思いますが、そう簡単にはいかないでしょう。

ほかには、政治的公平性や事実を曲げない報道を求める4条がなくなれば、特定の党派色の強い番組が放送されるのではないか、視聴者を増やすために過激な描写やフェイクニュースが増えるのではないか、という懸念が示されています。

この点については私も警戒しています。フェイクへの対処法は少しずつ身についてきましたが、正しいものを見極めるには限界があります。視聴者の思考の「たこつぼ化」も進むかもしれません。政党や政治家による根回し、それに応じてしまうメディアという構図は見たくないですが、果たして・・・。これらが杞憂だといいのですが、加計・森友学園問題の報道を受けて私も疑り深くなってしまったようです。

上で挙げたポイント以外にも、見直しによる影響はあるはずです。まだ検討段階で、記事の通りになるとは限りませんが、現場の意見も聞きながら慎重に進めてほしいと思います。

参考記事:
17日付 読売新聞朝刊(13版)1面(総合)「放送・ネット垣根撤廃 首相方針 番組参入、安易に」2面「首相、批判報道に不満か」3面「放送、信頼失う恐れ 『公平』規定を撤廃」