首都直下地震、帰宅困難者をどうする

「東日本大震災」と聞いて、あなたは何を思い出しますか。津波が押し寄せる映像、東京電力福島第一原子力発電所の爆発など、それぞれ印象に残っているものは違うと思います。私は被災地の様子とともに、3月11日の東京の光景も忘れることができません。波打つ高層ビル、新宿駅にあふれた通勤者、家へと急ぐ人の列、乗り切れない路線バス。新宿のビルで強い揺れを感じ、4時間かけて都内の友人の家へ歩いて帰りました。形は違っても、東京も被災したのだと思います。

29日、政府の中央防災会議は、首都直下地震による帰宅困難者が1都3県を中心に最大800万人に上ると発表しました。首都圏の地下を震源とするマグニチュード7クラスの地震は、今後30年以内に70%の確率で起こるとされます。地震発生後の二次災害や救助活動への影響を避けるため、帰宅困難者に3日間は職場などで待機するように求めています。無理に帰ろうとすることで、歩行者が車道にあふれたり、家族を迎えに行く車で渋滞したりするからです。

「3日間も待機する」。これは可能なのでしょうか。東日本大震災よりも大きい被害を東京が受けたら、「早く帰りたい」と思うのは、当然のことです。その思いを抑えて踏みとどまってもらい、緊急車両や物資輸送車などが活動できる環境にしなければなりません。そのような状況で食糧や情報を提供するのは、企業や学校の役目です。受け入れる側には自覚も必要です。

東日本大震災当日、新宿駅では「新宿ルール」という帰宅困難者受け入れ協定があるにもかかわらず、機能しなかった過去があります。JR新宿駅がシャッターをしめ、人を追い出したために混乱し、私鉄の駅が受け入れ許容量を超えてしまいました。この反省を生かし、JR東日本は駅構内や駅ビルの態勢を見直しました。家庭だけでなく、企業にも3日分の備蓄を勧めています。

一人ひとりが「帰りたい」という気持ちを抑えて、他に優先されるべきものを考える。企業は不安を抱いている帰宅困難者のために、十分な備蓄や情報を用意することが大切です。

参考記事:

30日付 各紙朝刊「首都直下地震・帰宅困難者」関連面