学ぶ権利を考える ユニセフハウスを訪ねて【後編】

前編では、ユニセフハウスの展示を通して、子どもたちの命や成長を支える水や食事、遊びについて取り上げた。後編では、紛争や貧困、児童婚などによって学ぶ機会を奪われた子どもたちに目を向け、教育を受ける権利について考える。

ユニセフハウスの展示によると、世界では2億5100万人の子どもや若者が学校に通えておらず、その3分の1は紛争地や災害の被災地で暮らしているという。さらに学校に通っていても、十分な学習環境が整っているとは限らない。

ユニセフハウスの展示の様子(2026年9月16日 筆者撮影)

 

■学校に通えない子ども、通っても学べない子ども

バングラデシュのスモンさんは、学校に通ったことがない。毎日10時間働いていて、自分の年齢は分からないという。生まれてから一度も誕生日を祝ったことがないためだ。展示の中で、スモンさんは「夢がない」と話していた。これについて、筆者とボランティアガイドの方との間では、学校で学ぶことができれば、将来、危険を伴う肉体労働ではなく、より安全な仕事に就ける可能性もあるのではないか、という話になった。

学校に通えるようになっても、教える人や教材が足りなければ、十分に学ぶことは難しい。展示では、中央アフリカ共和国の小学校の事例が紹介されていた。紛争によって教員が避難先から戻れず、教員不足が深刻化しているという。全校生徒は2300人以上で、200人もの子どもが一つの教室で学んでいるが、資格を持つ教員はわずか5人だ。ユニセフは教員不足を補うため、保護者や地域住民にも研修を行い、臨時教員を養成している。

展示の中には、十分に学習道具がない学校に送るという、学習のための道具セットもあった。

学習のための道具セット(2026年9月16日 筆者撮影)

さらに、紛争下では学校そのものが危険にさらされる。展示によると、2022年に学校が攻撃されたり、軍事利用されたりした件数は、確認されただけで3000件以上に上り、前年から17%も増加したという。子どもたちにとって安心して学ぶ場所であるはずの学校が、紛争によって安全な場所ではなくなっている。

こうした学校を紛争から守るための国際的な枠組みが「学校保護宣言」だ。筆者もこの問題に関連する活動に取り組んだことがあるが、日本は26年10月現在、この宣言に賛同していない。実は、G7の中で唯一の未賛同国である。

 

■紛争の中でも、学び続けたい

シリアのサジャさんは13歳だ。展示室には紛争地の教室が再現されていた。そこから見えるのは、かつては楽しい思い出のあった街が、紛争によってすっかり姿を変えてしまった様子だ。サジャさん自身も義足で生活し、親族と離れて5回以上の引っ越しを重ねた。兄も亡くしたという。それでも、サジャさんは学校に通い続けている。

「勉強しなかったら、夢をかなえることも、世界を平和にすることもできないから、学校に行き続けたい」

映像の中で語られたこの言葉が心に響いた。紛争によって日常を奪われ、住む場所さえ転々とする中でも、学び続けたいという思いを持っている。紛争とも食糧難とも無縁の環境で毎日学校に通えることは、決して当たり前ではないのだ。筆者自身もこの環境に甘えることなく、学んだことを将来社会に還元していきたいと思った。

筆者は小中高と勉強するために学校へ行っていたという自覚はあまりなく、友人や先生に会うために通っていた節がある。学校は、家以外の第二の居場所になり得る。紛争下の子どもたちにとっても心のよりどころとなる場所であってほしい。

 

■児童婚が奪う、女の子の学ぶ機会

イエメンのシファーさんも13歳だ。彼女は20歳年上の男性と結婚させられた。映像の中で、シファーさんは結婚への恐怖を口にしていた。幼い頃から周囲に「8歳になったら結婚するのよ」と言われてきたという。

児童婚とは、18歳未満の子どもが結婚すること、またはそれに相当する状態にあることをいう。結婚後は家事などを担うために学校に通い続けられなくなることがあり、家庭内暴力や早すぎる妊娠・出産のリスクにもさらされる。

ユニセフハウスの展示によると、世界では20歳から24歳の若い女性の5人に1人が、18歳になる前に結婚を経験しているという。この数字は、ユニセフが23年に公表した報告書に基づくものだ。また、児童婚を経験した女性や女の子のうち、南アジアに暮らす人は約2億9000万人、サハラ以南のアフリカに暮らす人は約1億2700万人に上る。これは、それぞれ世界全体の45%、20%に当たる。

児童婚の背景には、家計の負担を減らしたい、結納金を得たいといった経済的な事情のほか、結婚させることで娘の将来を守れるとする考え方や、地域に根付いた慣習もある。その結果、女の子は学校に通い始めても、結婚を理由に学びを中断せざる得ない実情がある。

 

■学ぶ中で、夢は見つかる

サジャさんとシファーさんは、同じ13歳の女の子だ。サジャさんは紛争下でも学校に通い続けたいと願う一方、シファーさんは児童婚によって学びを中断させられる。二人の姿を通して、いくら教育を望んでいても、本人の意思とは関係のない事情によって学ぶ機会が奪われてしまう現実が見える。

ユネスコの26年の報告では、世界全体で初等教育から高校段階までの就学率の男女差は、24年までにおおむね解消されたとされる。一方で、貧困や居住地域による格差は残り、結婚や妊娠、家事・ケアの負担が、女の子が学校に通いだすことや学び続けることを妨げる場合もある。

展示を案内してくださったボランティアガイドの方は、「学ぶからこそ夢が見つかる」と話していた。筆者自身、興味のあることが多く、将来何をしたいのか一つに絞りきれないと伝えると、「夢なんてなくてもいい。学んでいく中で見つけるものだ」と言ってくださった。幼い頃から学校で「将来の夢は何ですか」と尋ねられるたびに、答えを決められないことにもやもやしていたため、この言葉に心が軽くなった。

夢のために学ぶというのは、分かりやすく理想的な姿かもしれない。しかし、夢がないからこそ学ぶのだ。学んでいく中で自分の可能性を広げ、そのうち関心が絞られていく。そのための機会が、子どもたちには必要なのだと思う。

子どもの権利条約に関する展示(2026年9月16日 筆者撮影)

子どもの権利条約は、教育を受ける権利を含め、子どもが生まれながらに持つ権利を定めている。日本を含む世界196の国と地域が、この条約を守ることを約束している。しかし、条約があっても、紛争や児童婚、貧困や慣習によって、学ぶ機会を失う子どもたちは残っている。権利を条文として掲げることと、それを実際に保障することの間には、まだ大きな隔たりがある。

 

 

参考記事:

2026年8月16日付 朝日新聞デジタル 「アフガン女子教育禁止「絶対あきらめない」オンラインで教える23歳」

https://digital.asahi.com/articles/ASV8B4R7ZV8BUHBI001M.html?iref=pc_ss_date_article

2025年9月4日付 朝日新聞デジタル 「「600万人が通学できなくなる」 ユニセフが国際援助の削減を懸念」

https://digital.asahi.com/articles/AST933CY5T93UHBI013M.html?iref=pc_ss_date_article

2026年1月6日付 朝日新聞デジタル 「紛争下の教育への攻撃と「学校保護宣言」 日本に求められる行動」

https://www.asahi.com/withplanet/article/16257256

 

参考資料:

・公益財団法人 日本ユニセフ協会「教育|ユニセフの支援活動|ユニセフハウス・スタディ」

https://study.unicefhouse.jp/solution/education/

・公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン「学校保護宣言|あすのコンパス」

https://asuno-compass.savechildren.or.jp/action/sdg4/

・朝日新聞GLOBE+「【1分でわかる】紛争下の教育を守る「学校保護宣言」 G7で日本だけ賛同していない理由」

https://globe.asahi.com/article/16471179

・UNESCO「Gender and education: What is the latest data and evidence?|Global Education Monitoring Reports」

https://www.unesco.org/gem-report/en/articles/gender-and-education-what-latest-data-and-evidence

(最終閲覧はすべて2026年10月30日)