手話の表現は無限大 歴史と今後の課題を考える

皆さんは手話にどんなイメージを持っていますか?今年、夏の甲子園の開閉会式で初めて手話が導入されたことは大きな話題になりました。また、昨年施行された手話施策推進法においては9月23日が「手話の日」と規定されています。筆者は今月、学校で手話を学ぶ機会があり、初めて挑戦しました。

Instagramを意味する。小指は頭文字のI、人差し指はカメラのシャッターを切るように2回ほど倒す(筆者撮影)

手話で大切なのは上半身全体を使って表現することです。手の位置、動かし方、そして表情や姿勢などを組み合わせ、無限の意味を示すことができます。そんな手話も禁止されていた時期がありました。昭和8年の文部大臣訓示による口話法推進です。当時、世界的では相手の口の動きを見て言葉を読み取る読唇や発声訓練がろう教育で重要と考えられ、日本のろう学校でも口話推進のため、手話が排除されました。当時の理屈は、手話は直観的な表現でろう児の国語力を育むのに適切な言語ではないというものでした。こうした流れは平成初期まで続きました。

では、手話は音声に比べ劣っている言語なのでしょうか。

手話が真っ当な言語であることは「言語の二重分節性」から読み取れます。例えば、「猫がいます」という音声を一回分解すると「ねこ/が/います」となります。二回目の分解をすると「ね/こ/が/い/ま/す」となります。この言葉の最小単位は手話にも存在しており、手型・位置・動きの組み合わせで表されます。そのため、指一本の傾きの違いで別の言葉になってしまいます。この最小単位「音韻」が存在することは有限の動きで無限の意味を表すことができることを示し、身振りとは全くの別物であるということです。

TikTokを意味する。Tを作り、少し横にずらしてもう一度Tを作る(筆者撮影)

また、大きな魅力の一つに「見たものを描写する力」があります。ボールが跳ね返った状況を表現する際、どのくらいの大きさのボールがどのくらいの速さでどの角度で動いたのか。見たものを動画のように示すことができます。また、相手と意見が合わない時は両手の人差し指をすれ違う動作をします。方向や速度、眉毛や口の動きを変えれば、困ったのか、諦めているのか、相手の意見との差異はどのくらいなのか、を示すことができます。このような対象物や感情を写像的に示すCL(クラシファイアー)表現は音声に勝る鮮明な表現といえるでしょう。

 

多様な表現ができる手話ですが、改善が求められる点もあります。それはジェンダー表現です。手話が形成されたのは女性の参政権どころか、普通選挙もなかった時代です。「医者」は脈をとる仕草に男性(親指を立てる)を加えたもので、「先生」は教える仕草に男性を加えます。また、女性を表す小指に親指をくっつけると結婚を意味します。多くの自治体で同性パートナーシップ制度が認められる中、手話はどのように変化していくのか注目しています。

女性同士の結婚を意味する(筆者撮影)

アメリカ手話で広く結婚を意味する(筆者撮影)

手話単語の成り立ちをたどると、音のない世界で見た文化が丁寧に再現されていて興味深いものです。また、音声よりも相手の目をしっかり見て、あいづちを打つことが大切なため、初対面でも一気に距離が縮まりそうな気がします。引き続き勉強してみようと思います。

 

 

参考記事:

8月21日付 朝日新聞デジタル 甲子園の熱気、手話でも 開閉会式で初導入 高校生、入場行進で学校名表現 第108回全国高校野球(https://digital.asahi.com/articles/DA3S16530901.html?iref=pc_ss_date_article

8月5日付 読売新聞オンライン 甲子園開会式・行進する代表校の校名を手話で紹介…初めて導入、女子生徒2人が工夫凝らし(https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20260805-GYO1T00101/

8月18日付 日経新聞電子版 熊本地震の避難所、ろう者は情報不足 支援物資を受け取りにくく 支援者「見える方法で伝えて」(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO98212320X10C26A8CM0000/