洞窟の扉を抜けると、ひんやりとした空気に包まれ、別世界へ入り込んでしまったかのようです。筆者が訪れたのは栃木県佐野市の宇津野洞窟。石灰の町として知られる佐野市葛生地区に無料の観光鍾乳洞があると知り、訪れてみました。
洞窟内の下り坂を進むと「如意輪観音菩薩」の看板が置かれた岩が見えました。洞窟のある宇津野山から800mほど離れたところに、かつて光照寺があり、その境外のお堂が洞窟の近くに宇津野山観音堂として残ったことに由来します。この地域は佐野坂東三十三箇所と呼ばれる観音霊場となっており、宇津野山もその一つです。護摩焚き場の跡もあり、当時洞窟内で火を焚いて祈りをささげていたことには驚きました。天の川や賽の河原など岩にはそれぞれ名前が付けられており、当時の人が感じたことを追体験できそうな気になります。
洞窟の原形は新生代第三紀以降洪積世を通じて発達したものです。石灰岩の主成分である炭酸カルシウムが地下水の働きかけによって溶かされ現在の形になりました。その石灰岩は貝殻やサンゴの死骸が長い時間をかけて積み重なり完成します。佐野市葛生地区は石灰の一大産地であり、400年以上前から採掘が盛んな鉱都でありました。寛永年間、江戸城や日光東照宮の造営にも使われました。現在でも石灰の推定埋蔵量は15万トンに達すると言われ、セメントなどの原料として採掘が進められています。
2億5000万年前に形成された地層を見学し終えて、洞窟から外に出ると石灰を積んだトラックが左右からひっきりなしにやってきます。現代の文明は石灰岩を作ったはるか昔の生物たちによって支えられており、過去を知る手がかりとなる鍾乳洞の保存は急務であると感じました。国内の観光鍾乳洞の多くは私有地にあり個人所有が多いといいます。管理者が集まり、政府や自治体とともに保存の在り方を議論していく必要がありそうです。
参考記事:
2014年8月14日 産経ニュース 日本の地質百選 栃木・佐野「葛生石灰岩」(https://www.sankei.com/article/20140814-UOFLSONZ7FM47A3RD3VPBBX4OE/)
2026年8月26日付 読売新聞オンライン 「河内の風穴」想像よりずっとCOOL…55万年前の鍾乳洞が人気(https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20260826-GYO1T00115/)
2025年9月27日付 朝日新聞デジタル (はじまりを歩く)鍾乳洞 岩手県一関市、鹿児島県天城町 3.5億年を刻む、地底のロマン(https://digital.asahi.com/articles/DA3S16309600.html?iref=pc_ss_date_article)





