7月28日に最大震度7を観測した熊本地震で、災害関連死の疑いがある初の犠牲者が確認された。8月2日付朝日新聞デジタルによると、避難中の車で発見された70代女性はガソリンが切れ、クーラーは止まった状態で熱中症の疑いがあったという。気象庁によると、熊本市では2日、観測史上もっとも暑い38.9度を観測し、被害が大きい宇城市で37.5度、八代市で36.8度など県内全域で猛暑日となった。環境省と気象庁は熱中症警戒アラートを出し、水分や塩分の補給を呼びかけている。炎暑に地震が重なり、車中泊をはじめとした避難生活には警戒が欠かせない。
この事態を報じる新聞で見かけた「初の災害関連死」という見出しだが、その内容はどのくらい知れ渡っているのだろうか。2016年4月の熊本地震などで注目された災害関連死を取り上げた朝日新聞によると、「避難生活の負担による持病の悪化、自死など、災害と因果関係がある死」を指すそうだ。不衛生な環境による肺炎や、ストレスによる血圧上昇などで悪化する心不全、車中泊や雑魚寝が原因で足の静脈に血栓ができる「エコノミークラス症候群」などがその代表例とされる。ただ、明確な定義があるわけではなく、一般的には建物倒壊などによる直接死以外で災害弔慰金が支給された人のことを指し、弔慰金の申請がなければ関連死として把握できないという課題もある。
筆者が災害関連死という言葉に初めて触れたのは、昨年11月末に環境庁主催の「福島、その先の環境へ。」ツアーで訪れた東日本大震災・原子力災害伝承館の展示だった。復興庁によると、福島県における避難中の体調悪化や自殺による震災関連死は24年12月末時点で計2348人と、地震や津波による直接死の1605人を大幅に上回る。展示内で災害関連死の解説を読み、地震や津波での被害も甚大であるのに、関連死の人数がそれを遥かに上回ることに衝撃を受けた。
災害による肉体・精神的疲労は計り知れない。復興庁は、福島県では「避難所等への移動中の肉体・精神的疲労」による死亡者が多く、福島原発事故に伴う避難等の影響が大きいと分析している。東京大学医学部付属病院放射線科准教授の中川恵一氏は、オンラインメディアEnergy Frontlineの取材に対し、「生活不活発病」の発症が大きな問題だとして警鐘を鳴らしている。狭い仮設住宅や借り上げ住宅に住んでいる人に発症するもので、中川教授はインタビュー記事の中で「狭い空間にいる、というのはそれだけで大きなストレスだ。空間に閉じこもりがちになり、不活発な生活によって全身の機能が低下するという」と述べている。
この記事を読み、災害とは直接的には無関係ではあるが、数年前の筆者の生活を思い出した。高校を卒業した後の一年間、大学進学を目指す浪人生という立場ではあったものの、予備校に通うゆとりはなく、アルバイトや息抜きの外出、娯楽もあきらめた。自分の部屋やパーソナルスペースがなく、移動可能な場所は台所に隣接した小さな机のみであった。
常に家族の目がある半径5m四方の空間で過ごす生活を一年続けた。ガス代や電気代を無駄にしないために入浴は控え、真夏や真冬もできるだけ空調を付けずに過ごした。身体精神ともに健康状態からかけ離れたサイクルを重ねていると、季節や色や時間などに対する感覚、味覚、喜怒哀楽の感情は薄れる。生活ストレスで爪は黒くなり、体を何度洗っても自分から「変な匂いがする」という強迫観があった。次第に睡眠時と起床時の区別が付かなくなり、抑うつ的な状態が慢性的に続いた。
一度社会から断絶された生活を続けると、元に戻ることも難しい。大学に進学した後、一年ぶりに外出し、会話、運動に接したが、人との話し方や歩き方といった単純なことすら上手くできずに苦労した。また、長いあいだ、特定の狭い空間の中で過ごしていたため、入学直後は教室の広さに大きなストレスを感じた。今、こうした過去の生活による困難からは完全に回復し、健康な生活を営むことができている。しかし、このように、「当たり前」とされる生活が、そうではない生活の後だと一気に困難になってしまうことは、強く記憶に残っている。
筆者はトイレや風呂の利用に支障はなく、食事も取れていた。テレビはなくともネット回線があり、ニュースを見ることもできた。災害などによる避難生活においては、これらのインフラ供給すらもが不安定になりうる。加えて、そうした生活がいつ終わるか分からないという恐怖も、想像を遥かに超えるものだろう。浪人時代の経験ごときで、避難生活に理解を示すかのような態度を取るつもりはない。ただ、かつての自分の生活ですらもが長期的に健康を脅かしていたのだから、より不安要素が強いであろう避難生活におけるストレスはいかほどのものなのだろう、と胸を痛める。
「災害関連死」「生活不活発病」という言葉は、具体的な定義が曖昧なことも相まって、どれほどの辛さなのか想像されにくいだろう。しかし、直接の被害とは全く異なる次元での苦しさがあることも、より周知されるべきだ。それは支援や理解にも、日頃の備えにも繋がる。
熊本県では3日、ホテルや旅館への2次避難の受け付けが始まった。県内では40度以上の酷暑日も予想されるなど厳しい暑さが続く中、被災者らの生活改善に向け、県は受け入れ準備を急いでいる。 県によると、3日午前7時半現在、県内21市町の206か所の避難所に8556人が身を寄せているそうだ。
「災害大国」ともいわれる日本。災害の複合化や激甚化が指摘される一方で、災害対策の高度化も進められている。 連日余震と猛暑が続き、避難生活を余儀なくされている方が多い熊本で、そして今後の全ての場所で、災害関連死が少しでも抑えられることを祈る。
参考記事・URL
朝日新聞デジタル
2026年8月2日 熊本地震の死者38人に 車中避難の女性は初の「災害関連死」疑い
https://digital.asahi.com/articles/ASV824211V82TIPE00QM.html
2026年6月16日 【そもそも解説】災害関連死とは? 首都直下地震では4万人超想定も
https://digital.asahi.com/articles/ASV4H33CZV4HTIPE01CM.html
読売新聞デジタル
2026年8月3日 被災地で厳しい暑さ、ホテルなどへの「2次避難」受け付けはじまる…多くの人が申し込みhttps://www.yomiuri.co.jp/national/20260803-GYT1T00148/
2026年3月12日【環境省】福島のいまを歩く――若者170人が見た「環境再生」の最前線
https://www.yomiuri.co.jp/adv/article/sonosakitour2025/
Energy Frontline
2018年1月30日 Vol.04 「震災関連死」が語るもの 福島で甲状腺がんは増えたか?
https://ene-fro.com/article/ef42_a1/
久保稔・土田昭司・静間健人(2017)福島県における東日本大震災に伴う関連死に関する検討
一般社団法人 日本原子力学会 10.3327/jaesjb.59.12_727
