益子の土を紡いでいくー伝統技法「登り窯」ルポ

「人が人柱となって窯に入り、釉薬の調節をしていたのではないか」。かの有名な曜変天目茶碗の窯には、そんな説が唱えられるほどの神秘が宿っています。そして焼き物の名が「どこの山の土か」に由来するように、その基には何万年もの歳月をかけて自然が形成した貴重な「土」があります。

土の恵みと共に陶芸が根付くのが、栃木県益子町です。土を練る「菊練り」の技法を応用して蕎麦屋を始める人がいるほど、陶芸が日常に根付いています。筆者は、このまちへ陶芸をしに合宿所を訪れた際、石川圭先生(37)と出会いました。地元の陶芸家である父のもとに生まれ、窯とともに成長してこられた石川先生は、親子で陶芸を営まれています。器の表面を彫り込んで異質の粘土を嵌(は)め込む「象嵌(ぞうがん)」の作品は、他を圧する美しい佇まいです。

石川圭先生(2025年4月20日 筆者撮影)

石川先生の象嵌で造られた器(2025年4月20日 筆者撮影)

先日、筆者は石川先生のもとで、陶器を焼成する最終過程「窯焚き」を、原始的な薪窯「登り窯」で体験させていただきました。陶芸といえば、黙々とろくろに向かう姿が思い起こされるかもしれません。しかし、それは工程の一部に過ぎません。窯焚きは肉体と精神のすべてが勝負所の過酷な労働です。複数人で夜通し続く作業は、作品を窯に詰める「窯詰め」と薪割りから始まります。薪は近隣のさくら市にあるゴルフ場で伐採された松を再利用して、地域循環がなされています。窯を焚き上げるまでに、多くの人が携わっています。

薪割りの様子(2026年6月27日 筆者撮影)

窯詰めの最中は「器を割らないように」と張り詰めた緊張感で包まれます。器を重ねる際、作品が互いにつかないよう貝殻を噛ませて器を置く古来の技法は、焼き上がったあとに「貝の目」として味わい深い跡を残します。さらに、レンガで窯を塞ぐ下準備一つとっても、素人と石川先生とでは手際と完成度が違い、経験の重みに圧倒されました。

窯詰めの様子(2025年11月30日 筆者撮影)

6月26日(金)、火入れ(点火)。窯に携わる人全員で、無事な焼き上がりを祈り、自らを清めるために盃を交わす儀式が営まれました。これは「沖縄の窯焼きでよく行われる風習」だそうです。

火入れの儀式の様子、山形県酒田市「上喜元」で盃を交わす(2026年6月26日 筆者撮影)

今回は、素焼きを経ていない「生の器」を直接焼いたため、土の中の水分が爆ぜて割れてしまうのを防ぐ必要がありました。そのため翌朝までは時間をかけてじっくりと温度を上げ、穏やかに水分を抜いていきました。

そこから徐々に温度を上げていき、中央の大口や左右の小口から交互に薪を絶え間なく投入し、一気に火力を引き上げていきます。じっくりと温めていた窯は、ひとたび薪の投入を強めると、一気に300℃も温度が跳ね上がりました。窯の周囲はみるみるうちにサウナどころではない猛烈な熱気に包まれ、「ポリエステルのズボンなど履いていようものなら、生地が火だるまになる」と言います。不思議なことに、過酷にもかかわらず温度が上がれば上がるほどドーパミンが湧き出てきたように感じました。

大口に薪を焚べる石川先生(2026年6月27日 筆者撮影)

黒煙の様子(2026年6月27日 筆者撮影)

窯の温度を測るために、デジタルの温度計のほかに、「ゼーゲルコーン」という、特定の温度で溶けて曲がる三角錐の特殊な釉薬の塊を利用した温度計を使います。ここでも益子の人々のストイックさが表れます。通常は先端が曲がって首を垂れる程度の温度で良いとされますが、「益子ではコーンの先端が180度を超えて完全に棚板に張り付くまで焼き込む」と言います。この徹底ぶりは「益子完倒」という言葉で語られるほどです。今回もコーンが振り切れるまで薪をくべました。体力の限界が訪れ、最後には何を話しているかさっぱり分からなくなるほど疲れはてました。そのなかで薪をくべ続ける石川先生の背中は勇ましいものでした。今回は、6月28日(日)深夜に窯焚きが終わりました。

ゼーゲルコーンの様子(2026年6月28日 提供)

火と向き合う石川先生(2026年6月28日 筆者撮影)

石川先生親子のように、代々その土地の土と向き合い技術を受け継いできた伝統の重みを、窯焚きを間近で見て改めて実感しました。すべては何万年という歳月をかけて自然が育んだ「益子の土」があって始まった、まことに尊いものです。

 

しかし、その土は当然ながら有限資源です。今、国の補助金を背景としたメガソーラー(太陽光発電)の建設が推奨されています。再生可能エネルギーとしての電力確保や、発電事業そのものを否定はしませんが、もし山が売られてしまえば、陶芸に使う土が採取できなくなってしまいます。陶芸家たちが守り継いできた「益子の土」が眠る大切な地。目先の開発のために、そこに息づく伝統まで削り取ってしまわぬよう、エネルギーのあり方と土地の未来について、問い直さなければなりません。

窯を見守る石川先生(2026年6月27日 筆者撮影)

取材に応じてくださり、また登り窯で多くを学ばせていただいた石川圭先生に、心より感謝申し上げます。

参考サイト

・kei ishikawa official site https://nansouyou-kei.com/(最終閲覧日2026年7月20日)