カジノ法案 たった2日の採決

 カジノ解禁法案が、衆院本会議を通過する見込みが強まりました。現行法上、カジノは刑法の賭博罪にあたり、国内では認められていません。根強い反対意見がある中、2日間、計5時間33分の議論の末、委員長の職権で裁決しました。今回は、そもそもなぜカジノが必要なのかを調べた後、スピード採決について考えます。

 カジノが必要だといわれる根拠は、IR(Integrated Resorts)の形式にあります。IRは、カジノのみならず、ホテル、劇場、公園、博物館などをひとつの区域に含んだ統合施設です。それぞれが魅力的ではあるものの、カジノ以外は単体で利益を上げにくい施設です。そこで、カジノ売り上げによって施設を運用する経費をまかないます。その割合はなんと施設全体の80%以上。高い経済効果の期待できるIRを誘致しようと、多くの自治体が手を挙げています。IRの形式をとる上で、カジノが要であるという理屈はわかりました。

 朝日、日経、読売の各紙ともに、海外の例を引いています。シンガポールは2010年にIRを開業し、大きな利益を上げています。一方韓国では、カジノばかりに客が流れ、ほかの観光地が潤っていません。日経の社説では、バブル期の「リゾート法」や、競馬や競輪が地方で低迷していることを引き合いに出しました。利益をあげ続けるのは、そう簡単ではないようです。

 その上で最も疑問なのは、採決の早さです。どうして2日程度の審議で、採決に踏み切ったのでしょうか。カジノ法案は、審議されず棚上げの状態が続いていました。この「あらたにす」で初めて扱われたのは、2014年に遡ります。世論調査でも、未だに反対が賛成を上回っています。

 今朝の記事にも、早さの理由はいくつか書いてありました。TPPがトランプ大統領の登場で望み薄になり、新しい経済振興策が必要になったこと。東京五輪後の成長戦略にすること。投資家の関心を引き付けるタイムリミットだったことなど。すべて、供給者側の論理です。

 社会に及ぼす影響が、最も重要な論点だったはずです。支持する議員の間では、話に上らなかったのでしょうか。公明党がこだわった依存症者対策については、付帯決議という形で先延ばしにされました。成功したシンガポールでも、依存症の客は入れないような工夫をしています。重要な点に目をつむった採決です。

 国民が置いてけぼりにされていると感じます。確かにIRはとても魅力的で、説得力もあります。文化の発信と経済再建を同時にかなえうる手段です。しかしカジノは、ただの経済振興策ではありません。刑法で禁止されている、賭博の問題です。慎重すぎるほど議論を重ねなくては、いつかぼろが出ると思います。

参考記事:
12月3日付 日本経済新聞朝刊 2面『カジノ法案 議論生煮え』
12月3日付 読売新聞朝刊 1面『カジノ法案6日衆院通過』
12月3日付 朝日新聞朝刊 1面『カジノ法案 衆院通過へ』
その他関連面

参考文献:
小池隆由『IR(統合リゾート)とは、どんな施設なのか』東洋経済オンライン、2014年7月2日