9月中旬、東京都港区のユニセフハウスを訪れた。
ここでは、ユニセフ(国連児童基金)の活動や、紛争、児童労働、栄養不良などに直面する世界7人の子どもたちのストーリーを通して、子どもを取り巻く課題について学べる。本来、ガイドツアーには事前予約が必要だが、この日訪れた時間には来館者が筆者一人だったため、ボランティアスタッフの方が約3時間、館内を案内してくださった。
(2026年9月16日 筆者撮影)
前編となる今回は、7人の子どもたちのうち2人の事例を取り上げながら、水や食事、遊びといった、子どもが生き、育つために欠かせないものについて考える。
■水を得るために、往復8時間
エチオピアに暮らす13歳のアイシャさんは、家族のために水を運んでいる。水汲みには往復で8時間もかかるという。
展示では、実際に水を運ぶための容器を持つことができた。筆者は両手で一つを持ち上げるだけで精いっぱいだったが、アイシャさんは一つを頭の上に、もう一つを腰のあたりに乗せ、一度に二つも運ぶという。
水は、飲むためだけに必要なのではない。料理や洗濯、入浴、掃除など、生活のあらゆる場面で使われる。蛇口をひねれば水が出る暮らしを送る筆者にとって、水を手に入れるために一日の大半を費やす生活は、想像することさえ難しかった。
ガイドの方は、以前ネパールの人と話した経験も聞かせてくれた。山間部では水を得るために長い距離を歩くことがあり、アイシャさんと同じように、水を運ぶことで学校に行けない子どももいるという。水をめぐる問題は主にアフリカ地域の話だと思っていたが、日本から比較的近い南アジアのネパールにも同じような状況があると知り、水の問題を遠い地域の出来事と捉える誤りに気づかされた。
さらに印象に残ったのは、教育を受ける機会が限られ、世界のほかの地域の暮らしを知ることがないことだ。このため、水を運ぶことが日常になっている人々にとって、それが必ずしも「大変なこと」として意識されているわけではない、という話だった。
自分の暮らしが世界の他の人たちと比べてどれほど厳しいのか、知らないままでいる方が、かえって幸せなのだろうか。自分より恵まれた環境にいる人を知れば、今まで当たり前だと思っていた生活が、急に苦しいものに感じられるかもしれない。
ガイドの方は、お風呂について「身体を洗うのと同時に、心も洗う」と話していた。水がなければ、身体を清潔に保つことも、ほっと一息つくことも難しい。水は命をつなぐためだけでなく、人間らしく暮らすためにも欠かせないものなのだ。
■食べることは、生きること
水と同じように、食べることも命をつなぐために欠かせない。
南スーダンに暮らす1歳のアデュさんは、栄養不良に苦しんでいた。展示では保健センターが再現され、薬や母子手帳などが置かれている。筆者はそこで、重度の急性栄養不良に陥った子どもの治療に使われる「プランピー・ナッツ」という栄養治療食を初めて知った。
食事は身体を成長させ、病気と闘う力をつけるために必要だ。しかし、食べることの意味は、栄養を摂取することだけではない。食事には大切な人と場所や時間を共有する役割もあると思う。一緒に食卓を囲み、その日の出来事を話したり、おいしいものを食べてほっとしたりする。そうした時間は、身体だけでなく心の健康も支えている。
食糧支援では、支援が現地の人々の自立を妨げるのではないかという議論もある。しかし、食べることは生きるための条件だ。自立を考えるうえでも、まずは安心して食べられる環境を整えることが同じ人間として大切なことではないだろうか。
■遊びは、勉強や仕事の土台になる
では、子どもが健やかに育つために必要なのは、水や食事のような命をつなぐものだけだろうか。展示を見ながら考えたのが、遊びの大切さだ。
食べ物や水、医療がなければ、命が危険にさらされる。これに対して、遊びは生きるために不可欠なものではない、と考える人もいるかもしれない。しかし、ガイドの方との会話を通じて、遊びには創意工夫を学ぶという意義があることに気づかされた。
遊びの中では、自分で考え、試し、うまくいかなければ別の方法を探す。誰かと一緒に遊べば、相手の考えを知ったり、自分の思いを伝えたりすることもある。遊びは、創造力やコミュニケーション力を育む機会でもあるのだ。
筆者は、遊びが勉強や仕事を含め、さまざまな活動の土台にあると思っている。何かに興味を持ち、自分なりに工夫し、試行錯誤する。その過程には、遊びに通じるものがあるのではないだろうか。子どもが自分の世界を広げ、さまざまな力を育むために欠かせない時間なのだ。
■日本も、支援を受ける側だった
水や食事、遊びについて考える中で、もう一つ印象に残ったことがある。それは、日本もかつてユニセフの支援を受けていたという事実だ。
第二次世界大戦後の日本では、食べ物や衣類などが不足していた。ユニセフは1949年から1964年までの15年間、日本の子どもたちに脱脂粉乳や医薬品、衣類の原料となる綿などを届けた。脱脂粉乳は学校給食にも使われ、子どもたちの栄養改善を支えた。また、支援を受けた子どもたちが感謝の気持ちを込めて寄付をしたことが、日本でのユニセフ募金につながっていったという。
日本は支援する側だというイメージを抱いていたが、支援される側だった時期もあるのだ。国の開発段階に応じて、誰もが支えを必要とする時期を経験し得る。かつて自分たちも受け取った支援を、今度は恩返しとして別の国へつなげたいと強く思った。
■すべての子どもに、「 」を。
正面入り口付近の大きな展示(2026年9月16日 筆者撮影)
「for every child(すべての子どものために)」は、ユニセフが掲げる言葉だ。
ユニセフハウスには、「すべての子どもに、『 』を。」という問いに、展示を見終えた来館者が自分なりの答えを書き込めるコーナーがある。
筆者が書いたのは、「こころの健康、からだの健康」だった。
教育を受けることも、自分の意見を表明することも、まずはこころとからだの健康があってこそである。よく食べ、よく休み、安心して過ごす。そして、遊びや人との関わりを通して、豊かな想像力を育む。心身の健康は、子どもがさまざまなことを学び、自分の可能性を広げていくための土台だと思う。
後編では、紛争や児童婚によって学ぶ機会を奪われた子どもたちを通して、教育を受ける権利について考える。
参考記事:
2025年8月28日付 朝日新聞デジタル 「子どもの食、見直そう 栄養価値の観点で取り組み拡充 食品各社」
https://digital.asahi.com/articles/AST8X2VSBT8XULFA001M.html?iref=pc_ss_date_article
2024年12月28日付 朝日新聞デジタル 「紛争下の子ども4.7億人 6人に1人は「ユニセフの歴史で最悪」」
https://digital.asahi.com/articles/ASSDW2JKPSDWUHBI01WM.html?iref=pc_ss_date_article
参考資料:
・公益財団法人 日本ユニセフ協会 「ユニセフと日本ユニセフ協会の歴史」
https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_his.html
・公益財団法人 日本ユニセフ協会「すべての子どもに「 」を」
https://study.unicefhouse.jp/voice/
(最終閲覧はすべて2026年10月11日)

