疾風迅雷の騎馬武者 1000年の歴史をつなぐ相馬野馬追

福島県南相馬市で5月23日から25日にかけて相馬野馬追が開催されました。数百騎の馬による街中の凱旋や甲冑競馬などが繰り広げられる1000年以上の伝統を持つ祭りです。

 

野馬追は相馬家の遠い祖先である平将門が、下総の国(現:千葉県)で捕らえた野馬を御神馬として神前に奉納したことや放った馬を敵とみなして馬術や駆け引きなどの軍事演習をしたことが始まりです。940年に将門公が亡くなってから数年間は野馬追がなかったものの相馬家初代当主・相馬師常公が養子になり家督を継いだことで再開されました。1323年に第6代当主・相馬重胤公が下総から陸奥国行方郡(現:福島県南相馬市)に移ったことから、あらたな領地で野馬追が続けられたといわれています。

筆者は去年も野馬追の神輿役として行列に参加しましたが、今年は榊箱(さかきばこ)という役でお行列に参加しました。行列は相馬太田神社に供奉する中ノ郷勢を先頭に、相馬小高神社、相馬中村神社の順に進みます。9時30分に鳴らされる花火や陣太鼓の音を合図に甲冑を身に着けた総勢400騎にも及ぶ騎馬武者が3km先の会場となる雲雀ヶ原祭場(ひばりがはらさいじょう)を目指します。騎馬を近距離で見ることができ、その迫力に圧倒されました。途中、「褒美伝令」などと掛け声がかかり、勇ましく馬が走り去るその姿を見るとまさに平安、鎌倉時代の昔にタイムスリップしたかのような感覚を覚えました。

お行列の準備をする騎馬武者(5月24日、筆者撮影)

 

筆者が担当した榊箱は2人で運びます。お賽銭箱に榊の木が祭られたもので沿道の方などの御信心(お賽銭)を集める役割です。この榊箱には車輪がついていますが、祭場の「洋賜の坂」を上る際には車輪を外して担ぐことになります。坂は行列の騎馬たちが勢いよく上るため、土が柔らかくなっています。踏ん張りが効かないことから、とても苦労しました。しかし、途中で拍手や「お疲れ様」などと声をかけていただき、人情の暖かさを肌で感じながら上りきることができました。

相馬野馬追を観戦する人々(5月24日、筆者撮影)

 

祭場では今年も去年同様に甲冑競馬、神旗争奪戦が行われました。今回、甲冑競馬は第四コーナー付近で観戦することができました。スタート地点をよく見ると、競馬場にある馬と馬を区切るゲートはなく、それぞれの騎馬が息を合わせてスタートしていることが分かります。甲冑を身に着け、巨大な旗を靡かせながら走るその姿はまさに疾風迅雷でした。

第四コーナーを曲がる騎馬武者(5月24日、筆者撮影)

勢いよくスタートした騎馬武者(5月24日、筆者撮影)

 

甲冑競馬のあとに行われる神旗争奪戦も野馬追の一大行事です。上空150メートルに打ち上げられた花火から降りてくる御神旗を数百騎が奪い合い、まるで合戦の絵巻物のようです。旗を奪う時や旗を持った騎馬が洋賜の坂を勢いよく駆け上る時など、会場全体は常に歓声と熱気に包まれていました。今年も神旗争奪戦では女性の武者が旗を勝ち取り話題になりました。一昨年までは20歳未満の未婚の女性のみ参加が認められていましたが、去年からその条件が撤廃されています。

打ち上げられた旗の獲得を目指す神旗争奪戦(5月24日、筆者撮影)

 

25日には相馬小高神社で野馬懸が行われました。騎馬武者数十騎が境内に設けられた竹矢来に裸馬を追い込むところから始まります。白鉢巻に白装束の御小人(おこびと)と呼ばれる人たちが、境内に追い込まれた馬を素手で捕らえて神前に奉納する行事です。昔の名残をとどめている唯一の神事ともいわれ、野馬懸を含めた「相馬野馬追」は国の重要無形民俗文化財に指定されています。

境内を逃げ回る裸馬(5月25日、筆者撮影)

裸馬に飛びつきとらえようとする御小人(5月25日、筆者撮影)

境内に追い込まれた裸馬を御小人が素手でとらえる(5月25日、筆者撮影)

 

野馬懸が終わったあと、小高神社でも神旗争奪戦が繰り広げられます。祭場での争奪戦とは異なり、ここでは大人が旗を獲っても、総大将への報告役は子ども武者が務めます。これは幼少のうちから旗を勝ち取るという成功体験を積んでもらうためであるそうです。

この3日間で小学生ぐらいの子どもの騎乗姿をよく見かけました。野馬追の伝統は祭りに向けての準備・整備など地域の協力はもちろん、親から子どもへの文化の継承など親族や一族の協力で支えられていることを痛感します。東日本大震災から15年となる今年、相馬野馬追にかける人々の想いや震災、コロナ禍を乗り越えて1000年以上続く所以を垣間見ることができました。

 

残念なことですが、祭場で行われた甲冑競馬で観客6名を巻き込む事故が起きてしまいました。騎馬武者が落馬し、コースの外に出てしまったのです。多くの騎馬が参加する行事で、そうしたリスクが伴うのは確かですが、今後は柵の強度・高さの確認や馬を扱えるスタッフを増員するなどさらに警備体制を強化することで、事故のない祭りとなることを強く望みます。

参考文献:

2026年5月24日 朝日新聞デジタル 福島「相馬野馬追」甲冑競馬で馬が場外へ、客ら6人けが 2人重傷か

https://www.asahi.com/articles/ASV5S2364V5SUGTB00BM.html

2026年5月24日 読売新聞オンライン 初夏の出陣 威風堂々・・・相馬野馬追

https://www.yomiuri.co.jp/local/fukushima/news/20260523-GYTNT00197/

2026年5月24日 日経電子版 相馬野馬追、甲冑まとい騎馬武者疾走 見せ場に観客熱狂

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD241JE0U6A520C2000000/

2026年5月25日 朝日新聞デジタル 相馬野馬追本祭り、390の騎馬武者が集結 甲冑競馬に神旗争奪戦も

https://www.asahi.com/articles/ASV5S3S6WV5SUGTB00CM.html

 

参考資料:

相馬野馬追ホームページ

https://soma-nomaoi.jp/

 

 

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