日英の車窓を比べてみる 景色を作る法律とは

9月、ゼミの研修でイギリスを訪れ、ロンドンからダラム、エディンバラへと高速鉄道で移動しました。窓の外を眺めていて、ふと気づいたことがあります。駅に近づかない限り、街がほとんど見えてこないのです。どこまでも続く草地に、まばらな木々。あとは馬か牛か羊がいるくらいでした。

一方、渡航の前後に乗った東海道新幹線からは、まったく違う景色が見えました。山に遮られる区間を除けば、家並みがほとんど途切れないのです。もっとも、東海道新幹線は沿岸部の市街地をつなぐように走っています。家が途切れないのは当たり前だとも言えます。

しかし、どうもそれだけではない気がしました。この違いはどこから来るのか、いくつかの角度から考えてみます。

(9月6日筆者撮影 ロンドンからダラムへ向かう列車の車窓)

 

人口密度はほぼ同じ

まず疑ったのは人口密度です。日本とイギリスは、人口密度にそれほど差がないという印象がありました。実際に調べてみると、次の通りです。

出典:総務省統計局「令和7年国勢調査 人口等基本集計 結果の概要」(2026年9月29日公表)

2025年時点で、日本の人口密度は1km²あたり329.7人、イギリスは286.5人です。人口1000万人以上の国の中では日本が12位、イギリスが14位で、大きな差はありません。では、車窓の違いは何が生んでいるのでしょうか。

 

要因その1 住める土地の広さ

一つ目は「可住地」の差です。可住地とは、山地や森林、湖沼などを除いた土地を指します。すなわち、人が住める土地、あるいは開発すれば住めるようになる土地のことです。

出典:一般財団法人国土技術研究センター「意外と知らない日本の国土」

出典:一般財団法人国土技術研究センター「意外と知らない日本の国土」

日本は国土のおよそ3分の2が森林で、可住地は国土の27.3%、約10.35万km²しかありません。一方、イギリスはスコットランドやウェールズの高地を除けば、なだらかな低地が続きます。森林率は13.5%ほどで、可住地は約20.63万km²。日本の約2倍です。

つまり、日本では限られた可住地に人口が集中しています。東海道新幹線の沿線に市街地が連なっているのも、太平洋沿岸にある限られた平地に人が集まった結果だとみることができます。

しかし、これだけではまだ説明がつきません。イギリスには住める土地が十分にあるのに、なぜ車窓に家が見えないのでしょうか。

 

要因その2 イギリスの「グリーンベルト」

二つ目の要因は、土地の使い方を定める法律の違いだと考えられます。

イギリスでは1947年の都市農村計画法以来、あらゆる開発が自治体の許可制の下に置かれています。これにより、土地を持っていても、許可なく家を建てることはできません。中でも景観に大きく影響しているのが大都市の周りの「グリーンベルト」です。市街として開発することを原則として認めない土地で都市部を帯状に囲む制度で、30年代にロンドンで導入されていたとされます。現在、イングランドの土地の約12.5%がグリーンベルトに指定されています。

出典:GOV.UK, 2023.10.12, “Local authority green belt: England 2022-2023-statistical release”

その起源は、19世紀以降にロンドンなどの大都市で深刻になった、過密やスラムといった都市問題にあります。イギリス政府はグリーンベルトの目的として、次の五つを挙げています。

1, 大規模な市街地の無秩序な拡大を抑えること

2, 隣り合う町同士がつながってしまうのを防ぐこと

3, 田園地帯を開発による侵食から守ること

4, 歴史的な町の景観と特徴を保つこと

5, 荒廃地などの再利用を促し、都市の再生を後押しすること

(筆者訳)

主眼は、自然保護そのものというよりも、都市の膨張を止めることにあります。そのため、ロンドンをはじめとした大都市の周辺や都市と都市の間では、開発が厳しく制限されているのです。列車が街を抜けると、ハサミで切ったかのように市街地が姿を消し、一面の牧草地が広がるのはこのためだったといえます。平地が多いイギリスで、都市の外側は開発しないと決めたことで生まれた空間こそが、筆者が車窓から見た牧歌的な景色の正体だったのかもしれません。

 

日本はなぜ家が途切れないのか

では、日本にグリーンベルトはないのでしょうか。実は、日本も同じことを試みています。58年の第一次首都圏基本計画では、ロンドンのように東京の周りに「近郊地帯」というグリーンベルトを設けようとしました。しかし地元の自治体や土地所有者の反対で設定できず、65年の法改正により制度は廃止されました。

その後、68年の都市計画法で、市街化を抑える「市街化調整区域」が生まれました。ただ、この区分が義務付けられているのは三大都市圏と政令指定都市だけで、それ以外の地域で線引きするかどうかは都道府県の判断に委ねられています。2005年の時点で、市街化区域に指定されている場所以外に住む人々は人口の約4分の1を占めます。

都市の拡大を法律で止めたイギリスと、止めようとしたが止めきることができなかった日本。車窓の違いには、こういった差が表れているのではないかと考えられます。

(9月12日筆者撮影 ダラムからエディンバラに向かう列車の車窓)

 

グリーンベルトの課題

ところが、イギリスの方法にも問題が生まれています。それは住宅不足です。開発できる土地が限られることから、特にロンドンのような大都市では住宅価格が高騰し、住民から不満が出ているといいます。景観を守るのか、住まいを確保するのか。今後のイギリスの対応に注目していきたいです。

 

参考資料

総務省統計局「令和7年国勢調査 人口等基本集計 結果の概要」

一般財団法人国土技術研究センター「意外と知らない日本の国土」

Forest Research “Forestry Facts and Figures 2025 published”

GLOBAL NOTE「世界の森林率 国別ランキング・推移」

GOV.UK “Green Belt statistics for England 2024-25 Factsheet”

GOV.UK “Local authority green belt: England 2022-2023-statistical release” 2023.10.12

国土交通省「各国の国土政策の概要-英国」

Global Research「海外都市計画・地方創生・SDGs情報-イギリスのグリーン・ベルト Green Beltは都市計画の手法」

Global Research「海外都市計画・地方創生・SDGs情報-イギリスの都市計画:歴史と背景」

森の中「グリーンベルトとは?分野別の意味や目的、海外と日本の導入事例を解説」2024.3.26

国土交通省「首都圏整備制度」

一般社団法人大都市政策研究機構「首都圏基本計画のその後」

国土交通省「市街化区域と市街化調整区域〔区域区分〕」