韓国で読書が流行?「テキストヒップ」から得る、読書への姿勢

今、韓国では読書が流行中らしい。韓国の若者の間では「テキストヒップ(読書はおしゃれ)」が注目され、20代の読書率は7割を超えるそうだ。「テキストヒップ」とは文字どおり、テキストを読む人は「ヒップ」、すなわち「おしゃれでかっこいい」という意味で、3年ほど前から使われだしたという。

 

東京・神保町の韓国書籍専門店「チェッコリ」店主で、出版社「クオン」社長の金承福さんは朝日新聞の取材に対し、「韓国の若い人たちは、読書そのものを自分を表す文化としてテキストヒップを捉えている。例えばカフェで本を読むシーン自体がかっこいいと思っていて、それがSNSで上がってくると、自分も同じことをしたくなる」「自己表現の文化のひとつ。『何を読んでいるか』がその人の興味や価値観、世界観を表す」と答えている。

 

あるCMを思い出した。コーチの「Explore Your Story あなたの物語を描こう」である。シンガーソングライターの幾田りら氏の語りに合わせて、読書をするモデルの姿、本のページが映し出されていく。なぜファッションブランドが本に注目しているのかといささか疑問ではあったが、調べてみるとコーチは2026年春の新キャンペーンで「Explore Your Story」を発表していた。実際に読むことのできるブックチャームも発売している。「情報速度の早いデジタル時代に生きるZ世代が世の中の矛盾に目をむけながらも、本を通じて自己のアイデンティティや可能性を探りながら新しい時代を歩み出す姿を描いていく」そうだ。公式サイトには韓国語で書かれた本の写真も幾つか目に入る。やはり韓国の読書ブームとも関連があるのだろうか。

 

読書の再発見は韓国や日本だけで起きているのではない。アメリカでは「ブッククラブ(読書会)」が注目されている。Z世代についての著書を執筆し、AIに関する研究を専門にするジャーナリストの竹田ダニエルさんは、ブッククラブについて「動きとしては盛り上がっている」と述べつつ、ブッククラブだけではなく「ランニングクラブや音楽イベント、マージャンクラブ……リアルでの集まりがブームになっている。コロナ以降、集まれる場も減り、ネット上のつながりだけでは孤独で、人とつながりたい、語り合いたい、という欲求が高まっていた」「皆で集まって一つの趣味を共有することが再評価されている」と語る。読書の流行はアナログブームの一部であることを指摘している。

 

「アナログ」は具体的にどう注目されているのか。朝日新聞によると、スマホ依存気味の人たちがスマホから離れたいと思い、リアルな対面でのアクティビティーを増やそうとしているそうだ。紙媒体やレコードなどが、若い人たちの間で「かっこよさ」という一つの価値を持つようになっているという。こうした流行の実態にはよく分からない面もある。ファッションや「かっこよさ」で本やレコードを選ぶことは、中身に真摯に向き合うことに繋がるのかという疑問もある。20年ほど前には、中身に関係なく表紙の雰囲気でCDを買う「ジャケ買い」が流行している。とはいえ、スマホがあまりにも身近にある現代においては、ファッション性の強いアナログ回帰も一定の役目を果たすのではないか。何よりも、スマホから離れて本を選ぶという点が重要だ。意図的なファッションの流れは必要だとさえ思う。

 

先日、ブックカフェに行った。広い店内に本棚が併設されていて、友人と共に食事が出てくるまでの時間を本探しに使った。壁一面に置かれた本を細かく見ていくと、手書きのカードでジャンル分けされている。面白そうな何冊かを手に取り、記録のために写真撮影もした。本はその場で購入もできるようだった。これまで、ブックカフェをファッション性が高く、中身が薄いものかもしれないと勝手に避けてきたが、実際に行ってみると、予想していたよりもずっと面白かった。友人との話題ができることも楽しい。ゆっくりと本棚を巡る中で、互いに話しながら、手に取った本の背表紙や中身に触れた。カフェのスイーツを食べながら、本の話をした。

 

私はネットのレビューや他人のおすすめで本を選ぶことが多く、表紙で本を選ぶことはほぼなかった。しかし、その日はブックカフェの本棚の音楽コーナーにあった「21世紀のポップ中毒者」の表紙のセンスに一目ぼれし、装丁で選ぶ面白さを垣間見ることができた。骸骨のデザインと色味のセンス、そして何より「POP HOLIC」という目を引く単語の中でOの字をかぶせて縦と横に並べる配置、全てに「これは私の好きな本に違いない」という期待をかきたてた。エディター・ライターの川勝正幸による2008年刊行のポップカルチャー エッセイ集であり、「ポップ中毒者」シリーズの最終作であるその本は1990年代から2010年代くらいまでの音楽の流れを高校時代に追っていて、2000年代のポップカルチャーに特に興味がある自分にとって非常に魅力的な本だった。

 

他にも、中学時代に出合った大岡昇平「野火」も再度手に取った。作者のフィリピンでの戦争体験を基にして人肉食という問題を扱い、死の直前における人間の極致を描いた作品だ。ここ数年間、野火のことを考える機会は全くなかったのだが、それでも表紙を見ただけで、中学生で読んだ本だと思い出した。本の表紙には私がまだ知らない力があるのだろうか、ブックカフェに足を運んだことでこれまでにはなかった本との出合い方、そして再発見を楽しむことができた。

 

目の前には、読もうと思ったまま開いていない本が十何冊も積み重なっている。夏休みこそ沢山読もうと思っていたが、思ったようにはできていない。就活や学生記者活動、アルバイトや遊びなどに追われていることもあるが、やはり一番の原因はスマホの使いすぎだろう。1ページでも本をめくるところから始めようと考えるうち、そういえば、人と本の話をあまりしないことに気がついた。もしかすると、今の私に必要なのは本の話をする場所や人なのではないだろうか。

 

面白くて深夜に一気読みした小説、自分の言動に影響を与えた作品などはあっても、私はあまりそれらの内容や興奮を他人と共有することがない。自分は自分の趣味、他人は他人の趣味と思っていることに加え、本の面白さを実感として共有するには時間を要し、他の娯楽の話に比べて勧めるハードルが高いと感じるからだ。読書会にも何度か参加したことがあるが、最近は殆ど行っていない。韓国やアメリカの流行は、一見本をおしゃれなものとして取り入れる点が画期的に見える。ただ、より大切なのは本を共有する相手、会話、コミュニティを増やすことにあるのかもしれない。まずは、ネットでレビューを見ずに選んだ本の中身を、軽い雑談のなかで友に語ることを目指そう。

 

参考記事

朝日新聞デジタル

2026年9月1日20代読書率7割の韓国 テキストヒップ現象生んだ「つながりたい」https://digital.asahi.com/articles/ASV8X1W5RV8XULLI00QM.html?_requesturl=articles/ASV8X1W5RV8XULLI00QM.html

2026年8月20日 ブッククラブ人気の背景は 竹田ダニエルさんが問う米国のAIと読書 https://digital.asahi.com/articles/ASV8L2VL3V8LULLI003M.html

VOGUE JAPAN あなたの物語を描こう。コーチ、2026年春の新キャンペーンに幾田りら、エル・ファニングらが登場 https://www.vogue.co.jp/special-feature/2026-02/26/coach