最近、筆者の通う中央大の学祭にアダルトビデオ(AV)俳優がゲストで来るらしい、という話を聞いてびっくりしました。よくよく聞いてみると、「AVの教科書化に物申す!」というイベントで、”性”について考える学生団体が「性暴力をなくそうプロジェクト」の一環で企画したものでした。当日は制作メーカーの社長や産婦人科医も登壇するとのこと。団体は
「AVに描かれるセックス」と「パートナーとのコミュニケーションとしてのセックス」では何が違うのか。そして、実際のセックスでは何に気をつければいいのか。この2つの問いの答えを探しに行きたいと思います。
と企画の趣旨を説明しています。
あらたにすでも何度か記事にしていますが、(「性と生徒」、「日本の性教育は十分か」)人前では話しづらい風潮がある話題を、こうしてオープンな場で共有し一緒に考えてみようとする流れが同世代から生まれ始めています。
AVをめぐっては、出演の強要も大きな問題となっています。被害者が跡を絶たない事態を受け、業界側では昨年に第三者機関が発足し改革に着手しています。その一つが「適正AV」です。これは知的財産振興協会(IPPA)に加盟しているメーカーが制作し、制作過程においてガイドラインを守って製品化された映像のことです。無修正や、非加盟メーカーや個人による無審査の映像は「不適正」扱いとなり、ロゴマークの有無で差別化されることになっています。適正マークは日本プロダクション協会のホームページの右下にも載っています。
ただ、当のビデオの視聴者にこの基準がどれだけ浸透しているかは不明です。どのようにしてつくられたのか、というところまではいちいち気にしないという人が大半なのではないでしょうか。それに「適正」といってもどこまで信用していいものか、疑ってしまいます。
制作過程の具体的な改善策については、先に挙げた第三者委員会の代表、志田陽子武蔵野美術大学教授が昨年5月のAERAのインタビューで次のように説明しています。「具体的には、女優さんには契約前に台本を事前に見てもらい、一回は持ち帰って、ひとりで考える時間を作ってもらう。また、クーリングオフのように、契約を一度しても、出演者側が『やはり辞めたい』と言った場合は、その意思が優先されるルールも提言に盛り込まれています。また、女優さんが途中で降りた場合に違約金を請求することも禁止されます。」
少しずつ変わろうとしている業界の雰囲気は伝わりますが、出演者が撮影現場で意見しにくいという状況はまだあるのではないかと思います。今日の新聞で望まない出演をしてしまった20歳の女性の記事を読み、つらくなりました。当時高3だった彼女は、ツイッターでAV俳優と知り合ったことがきっかけでプロダクションに誘われ、「避妊薬を飲み、下半身から血が出るほどの過激な撮影を強いられた。性感染症にかかり、ストレスから不眠症になった」といいます。販売が停止されても、映像がネット上に流出して拡散された場合、被害者は苦しみ続けることになります。
ある日のお酒の席で同年代の友人たちにさりげなく聞いてみたところ、レンタルビデオではなく、ネットで無料動画を見ているという人が多かったです。お店では人目が気になって借りにくい、という声が大半でした。こうした動画の中には、望ましくない経緯でつくられたり、性的搾取の被害者を生んだりしているものも紛れているかもしれません。需要はけっしてなくなりませんが、私たち消費する側もこうした問題があることについて目を背けることはできないと思います。
参考記事:
16日付 朝日新聞朝刊(東京14版)30面(社会)「軽い会話の先に…AV強要」「スカウト不要 巧妙化」
8月6日5:00配信 朝日新聞デジタル「(フォーラム)もう一つの『♯MeToo』」https://www.asahi.com/articles/DA3S13623673.html
AERAdot.「新たなる『適正AV』ってなんだ?」https://dot.asahi.com/dot/2017053100011.html