高齢者って誰?

 「65歳で高齢者」。この考え方には違和感を覚える方が多いのではないでしょうか。生き生きとして旅行へ出かけたり、趣味を楽しんだりしているおじいちゃんやおばあちゃんを見ていると、高齢者と呼ぶのは失礼だと思ってしまいます。

 2014年に内閣府が行った「高齢者とは何歳以上か」という意識調査では、「75歳以上」と答えた人が28%、「65歳以上」が6%でした。年配者を敬い、いたわる姿勢は大切にしなければいけませんが、周囲から見れば元気に過ごされている方が多いということでしょう。

 世論を反映するように、日本老年学会と日本老年医学会は、「65歳以上」とされている高齢者の定義について、「75歳以上」に引き上げるべきだとする提言を発表しました。生物学的にみた年齢は10~20年前に比べて5~10歳は若返り、知的機能の面でも、70代の検査の平均得点は、10年前の60代に相当するといいます。

 これにより、65~74歳は高齢者の準備期の「准高齢者」とし、社会を支える人として捉えるべきだとしています。「心身の健康が保たれ、活発な社会活動が可能な人が大多数」と分析されました。

 「高齢者」「准高齢者」は区分にすぎませんから、人それぞれであることには変わりません。呼び方について賛否が分かれるのも確かでしょう。しかし、元気で活動できる人を高齢者扱いしてしまうのは失礼なことだと思います。「何かをできることをしたい」と思っている人に選択の機会が与えられることは、高齢化社会の日本に必要なことです。また、社会を支える、社会から求められているという自覚は、さらに人を元気にするはずです。

 労働力人口が減る日本に、今回の提言はもってこいではないか、と考える人は少なくないでしょう。「准高齢者」にできるだけ働いてもらうということです。しかし、いくら元気とはいえ、74歳まで現役で過ごすのは厳しいでしょう。医療や年金の支え手になってもらうというのも現実的ではありません。また、若者の仕事を奪うことにも繋がりかねません。

 そこで活躍の方法を柔軟に考えることが求められます。日本で「働く」といえば、「正社員」「フルタイム」という考え方が大多数です。ましてや、「准高齢者」にあたる世代ならばなおさらでしょう。そうではなく、健康状態に合わせた就労・技能・ボランティアへと発想を転換することが必要です。フルタイムで働く人とは別の賃金体系を作ることもひとつの手です。ボランティアといってもタダ働きである必要はありません。「有償ボランティア」として、市場の賃金よりも低い報酬を受け取る活動もあります。お金よりも社会性や必要とされていることという考え方が広がれば可能だと思います。

 筆者がオーストラリアの動物園を訪れたときに、スタッフにお年寄りが多いと感じました。失礼を承知で彼らに尋ねると、交通費やわずかな報酬があるボランティアだと教えてくれました。観光客や動物と触れ合うことを生きがいにしているそうです。

 今回の提言を安易に社会保障制度や労働力に結びつけることは危険です。しかし、活躍の幅を固定観念にとらわれずに広げていくことが、これからの社会に欠かせません。

参考記事:
6日付 朝日新聞朝刊(東京13版)「高齢者、75歳から」1面
6日付 日本経済新聞朝刊(東京13版)「高齢者は75歳から」2面(総合)
6日付 読売新聞朝刊(東京13版)「高齢者 75歳から」38面(社会)