「譲ります」 まで禁止しないで

○月×日 大阪公演のチケットが重複してしまったため、二枚お譲りします

○月×日 福井公演のチケットお譲りください

 
 好きなアーティストのコンサートが近づくと、インターネット上でこのようなメッセージが飛び交いました。コンサートのチケットが当選するよう、いろいろな手段で抽選に応募していると、時たま同じ日程のチケットが複数当選することがあります。そんなときはインターネットを通して、定価で譲れる人を探します。筆者自身、友人と自分の当選チケットが重なり、インターネット上の他人に譲渡したことがあります。こちらはチケット代が無駄にならずに安堵し、相手は行けなかったはずのコンサートに行けることになって喜ぶ。そこから始まる交流もあり、譲れて良かった、と心から思っていました。
 
 一方、同様の状況で取られる行動として、以前あらたにすでも取り上げられた、チケットの転売があります。転売の多くは高額で行われます。その対策としてテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」が転売されたチケットを無効化にしはじめてから、一年が経ちました。ネットオークションや仲介サイトで転売されたチケットの番号を点検し、QRコードを無効化、出品者に購入者への返金を要請する、という作業に年間数千万円を費やした結果、転売チケットの流通量は100分の1になったといいます。
 
 同じく転売行為が盛んなコンサートのチケットでも、対策が取られ始めています。「顔認証システム」を導入し、写真照合により来場者が購入者本人かどうかを確認する例もあります。そうすれば、転売を通してチケットを入手しても会場に入れないため、購入自体行われなくなる、というわけです。
 
 確かに、転売行為をなくしたいならば有効な対策といえます。しかし、以前の投稿でも指摘されたように、チケットの払い戻しができないとなると、冒頭に挙げた善意の「譲渡」さえできないため、利用者にとっては不便きわまりない仕組みとなります。
 
 USJの場合、「放置しておけば適正な価格で楽しんでもらえなくなる」との判断がそこにはあるようですが、経済学的には、どんなに高い価格でも、「その値段でも買いたい」という人が一定数存在するから転売が成り立っているのです。高い転売価格も合理的と考えられます。
 
 では、ここでいう「適正な価格」とは何なのでしょうか。思うに、「裕福な人もそうでもない人も、多くの人に楽しんでもらえる価格」でしょう。転売行為が蔓延し、高価格のチケットが普通になってしまったら、それを買う余裕のない人はチケットに手を出すことができません。豊かな人だけがコンサートやテーマパークを楽しめる、ということになってしまいます。
 
 そう考えると、理想的な対策は「転売」そのものを排除することではなく、転売価格が極端に高くならないように取り締まることではないでしょうか。公認の転売仲介サイトを設立し、そこでの転売あるいは、定価での譲渡のみ認めるようにすることは、さほど難しいことではないはずです。
  
 「転売行為は悪」としてすべて取り締まるのでは、消費者のニーズに答えられているとは言えません。現実に即した柔軟な対策が必要とされています。
 
 
 
参考:4日付 読売新聞朝刊 社会面 「買い占め転売 100分の1に」