遠き一票、戦後最短選挙から浮かび上がる在外投票の壁

第51回衆院選の投開票が行われました。筆者も有権者として期日前投票に赴き、しっかりと一票を投じてきました。投票所は地元の小学校です。選挙のときにしか中に入ることができないため、この機会に母校の空気を懐かしみました。

ところが、こうした話を友人にしたところ、次のような言葉が返ってきました。

「解散が急で在外投票の登録ができなかった。結構悲しい」

この友人は現在ヨーロッパに留学中で、国内で投票できない状況にあります。私はこの話を聞いて初めて、自分自身が在外投票制度についてほとんど理解していなかったことに気づかされました。

在外選挙制度とは、海外に居住しながら国政選挙に参加できる制度です。外務省によれば、令和7年10月時点での海外在留邦人数は129万8,170人にのぼります。対象者は、出国時申請の場合は満18歳以上で国内の最終住所地の市区町村の選挙人名簿に登録されている者、大使館や総領事館での申請の場合は、満18歳以上で引き続き3か月以上その住所を管轄する在外公館の管轄区域内に住所を有する者とされています。外国にいる日本人の半数に選挙権があると仮定すれば、約65万人が海外から投票する権利を持っていることになります。

では、実際にどれほどの人が投票できたのでしょうか。

外務省によると、投票日だった2月8日時点在外選挙人名簿の登録者数は10万3,380人で、投票者数は小選挙区選挙が2万8,966人(28.02%)、比例代表選挙が2万9,089人(28.14%)でした。今回の衆院選全体の投票率が56.26%であったことを踏まえると、在外投票の投票率はその半分程度にとどまっています。

このような結果となった背景にはいくつもの要因が考えられますが、特に衆議院選挙期間の短さが少なからず影響しているでしょう。そもそも在外選挙人名簿への登録には事前の申請が必要です。解散から投開票まで16日間という戦後最短の選挙期間であったため、申請する時間を確保できなかった有権者が多かったのではないでしょうか。国内でさえ、期間の短さから各党の政策を十分に理解できないまま投票せざるを得なかったという声を聞きます。海外ではなおさら慌ただしい投票となったと推察されます。

また、投票方法そのものも投票率の低さに影響していると考えられます。在外投票には、①海外の日本大使館や総領事館等に設けられた投票記載場所で行う「在外公館等投票」、②在外公館を経由せず国内の選挙管理委員会に投票用紙を請求し、郵送で投票する「郵便等投票」、③一時帰国時などの際に国内の指定投票所で行う「日本国内における投票」の三種類があります。しかし、筆者の友人のように留学中の大学生にとって、一時帰国して投票することは非現実的です。また、「在外公館等投票」は、選挙の公示日の翌日から国内投票日の6日前までという極めて限られた期間内に行わなければならず、投票記載場所から遠く離れた地域に住む人にとっては大きな負担となるでしょう。その結果、現実的な選択肢として残るのは「郵便等投票」ですが、これも請求書の送付、投票用紙の受領、記入後の返送という複数の手続きを要し、時間的・心理的な障壁が高いものとなっています。

解散のタイミングについては、政治的判断に基づく以上、突然となることもやむを得ない側面があります。しかし、国内ほど容易に投票できる環境にない在外邦人にとって、権利行使の機会が著しく制限されてしまう現状は公平とは言えません。今後、投票までの期間が短い選挙であっても、より多くの人が等しく選挙に参加できるよう、制度の改善を検討していくことが求められています。

 

参考資料

日本経済新聞, 2026.1.31, 在外邦人の郵便投票、間に合わぬ恐れ 戦後最短の衆院選で

外務省領事局政策課, 海外在留邦人数調査統計(令和7年10月1日現在)

外務省, 在外選挙・国民投票・国民審査

外務省, 2026.2.9, 第51回衆議院議員選挙等に伴う在外投票(速報:投票者数)