子どもがスマホを持たない社会? どうなるデジタル時代

12月10日からオーストラリアでは、16歳未満に対してSNSの利用を制限する法律が世界で初めて施行されました。利用を制限するための年齢確認の徹底は難しく、法律は「抜け穴だらけ」との指摘はありますが、賛同する声も多数あります。中には、法律の施行前にSNSの利用やスマートフォンの所有を校則で禁じる学校もあるそうです。

豪州西部パースにある私立男子校「ヘイルスクール」では、16歳未満のSNS利用を制限する法律が成立すると、施行に先駆けて校則を定める検討が進められました。実際に保護者にアンケートをとり、子どもにスマホを持たせたくないとの回答が8割を超えたため、スマホの所有を原則禁止とする校則を設けました。

同校では過去にSNS上でいじめが起き、性的な画像を送らせるなどの「セクストーション」(性的脅迫)の被害があったことが確認されています。校長は「SNSのアルゴリズムが子どもに悪影響を与えているのは明らかで、もはや飲酒や喫煙と同等に有害だ」「未成年が飲酒や喫煙をしないように、子どもがスマホを持たないことが当たり前の時代が来る」と話しています。

2015年から学校でのデジタル教科書を解禁した韓国では、22年にはほぼ全ての小中学校で使われるようになりました。デジタル教科書が主流になっている中で、紙による学びを重視した学校もあります。学習用端末の使用を一部にとどめている学校からは、パソコンによる学習ばかりでは授業に集中できないといった声も聞かれます。

今年3月にはデジタル教科書のほかAI(人工知能)を搭載したデジタル教科書が導入されましたが、8月には韓国国会がAIデジタル教科書について「教育資格」に格下げする法改正案を可決しました。教員の80%がAIデジタル教科書に否定的との調査もあり、デジタル化が広まる学校現場では「脳や体の発達への影響もわからず、デジタル化が行き過ぎている」と指摘されています。

フィンランドでは、それまで国際学習到達度調査(PISA)の読解力、数学的応用力、科学的応用力で好成績だったのが、デジタル教科書を導入したことにより、順位が落ちたことが明らかになっています。

デジタルを積極導入した海外の教育先進国では、子どもの学力低下や心身の不調が顕在化し、見直しの動きが相次いでいます。一方で、日本では今秋、文部科学省の諮問機関である中央教育審議会で、デジタル教科書を正式な教科書とする方針が打ち出されました。デジタル教科書は今後、検定や採択、使用義務の対象となり、30年から学校での使用を目指すとのことです。

筆者は学生時代を紙の教科書で過ごしたため、デジタル教科書の利点を実感したことはありません。大学に入ってからは文献を参照することも増えました。その際にはパソコン上で見られるものも少なくありません。それでも紙で読んだ方が自由に線を引いたり、書き込みをしたりしてより理解できるため、今でも印刷するようにしています。

もちろんデジタルにはデジタルの良さがあると思うのですが、他国の事例を見ると、急速なデジタル化は特に若年層にとって精神面でも学習面でもネガティブな影響を及ぼすことがわかりました。生活の多くの場面でデジタル化が進んでいますが、時代の流れになんとなくついていこうとするのではなく、考えながら向き合っていきたいものです。

参考記事

3日付 朝日新聞夕刊(大阪4版)1面「豪、『16歳未満のSNS利用制限』世界初の法律10日施行」

参考資料

読売新聞デジタル 「デジタル導入の『教育先進国』で成績低下や心身の不調が顕在化…フィンランド、紙の教科書復活『歓迎』」https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20250317-OYT1T50203/

読売新聞デジタル 「AIデジタル教科書『行き過ぎ』、韓国では揺り戻し…記憶に残りやすいのはデジタルより『紙』との研究成果も」https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20251203-GYT1T00445/