日本最長の地下通路を歩く 東京の地下4050メートル

東京の地下には、約4キロにわたって歩行空間が繋がっている場所がある。国土交通省が2016年にまとめた「主な地下の歩行空間ネットワークの現状」によると、大手町・八重洲・銀座地区の地中に延びる通路の総延長は約4050メートル。経団連ビルからJR東京駅八重洲口、八重洲地下街、東京国際フォーラム、JR有楽町駅前を通り、歌舞伎座前までを結ぶルートとして紹介されている。

4キロを地上に出ずに歩ける。長距離を歩くことが好きな筆者にとっては、かなり惹かれる数字だ。そこで、歌舞伎座近くの東京メトロ東銀座駅6番出口から大手町方面へ、実際に歩いてみることにした。

右手奥の建物が歌舞伎座(2026年9月2日 筆者撮影)

出発したのは午後2時半。東銀座駅から地下へ入ると、まず日比谷線の改札脇を通り、銀座駅方面へ進んだ。途中には都営浅草線の線路が走っているため、一度深く潜る。地上から見れば数百メートルしか離れていない東銀座と銀座だが、地下ではいくつもの路線や施設を超えながら道が続いている。

(2026年9月2日 筆者撮影)

銀座に入ると、地下通路の雰囲気が変わった。新しく整えられた明るいスペースもあれば、少し古さの残るところもある。筆者はこの地下の雰囲気が好きだ。鉄道が好きということもあるが、案内表示や地下鉄の音、長く使い込まれた通路を見ると、地上とは違う世界を歩いているようで楽しい。

(2026年9月2日 筆者撮影)

途中では、日本で最初の地下鉄を実現させ、「地下鉄の父」と呼ばれる早川徳次の像も見つけた。

(2026年9月2日 筆者撮影)

銀座から有楽町へ進み、東京交通会館の地下を通る。

(2026年9月2日 筆者撮影)

さらに東京国際フォーラムへ向かう。ここまで来ても、まだ一度も地上に出ていない。

(2026年9月2日 筆者撮影)

東京国際フォーラムを抜けると、東京駅方面へ向かう。京葉線の八重洲2丁目方面1番出口へ向かうと、突然、外の明るさが見えてきた。地下と言えるのか怪しいが、どうやら屋根があれば、地下として扱われるらしい。

(2026年9月2日 筆者撮影)

その先では、パシフィックセンチュリープレイス丸の内やグラントウキョウ サウスタワーといった最近できた複合施設など、東京駅周辺に並ぶ高層施設の地下を通っていく。八重洲地下街に入ると、先ほどまでの通路とは雰囲気が一変する。飲食店や店舗が並び、人も増える。さらに進むと、東京駅一番街のキャラクターストリートが現れる。

(2026年9月2日 筆者撮影)

ここではスーツケースを引いた若者が目立った。新幹線で東京へ来たのだろうか。それとも、これから東京を離れるのだろうか。キャラクターショップを楽しそうに見て回る人たちを見ていると、ビジネス街とは歩いている人の雰囲気が全く違う。

大手町に近づくにつれて、今度はスーツ姿の会社員が増えていく。特に男性が多い。女性の姿が少ないことにも気づき、まだ男性中心の職場が多いのだろうか、と考えたりもした。

(2026年9月2日 筆者撮影)

大手町駅に着いても、まだ終わりではない。大手町駅は複数の地下鉄が乗り入れており、駅構内もかなり広い。目指す出口によっては、駅に着いてからも長く歩くことになる。

(2026年9月2日 筆者撮影)

今回のルートでは、東京メトロ東西線大手町駅のC2b出口付近からビルを通って、地上へ出た。

(2026年9月2日 筆者撮影)

東銀座を出発してから約1時間半。途中で写真を撮ったり、案内表示を確認したりしながら、4050メートルの地下歩行空間を歩いた。

歩いてみてまず感じたのは、地下が思っていた以上に快適だということだ。空調が効いているため、外の暑さを気にせず歩ける。雨が降っていても傘を持って歩く必要がない。信号もないので、立ち止まることなく歩き続けられる。

では、なぜ東京の地下にはこれほど長い歩行空間ができたのだろうか。

理由の一つは、鉄道や建物が密集する都心で、多くの人を安全かつ快適に移動させるための空間が必要だったことだろう。大手町・丸の内・有楽町地区では、地下鉄の開業やビルの開発に合わせて地下空間がつくられては繋げられ、少しずつネットワークが広がってきた。

現在も、地下歩行空間は新しい建物や再開発とともに整備されている。国土交通省は、既存の地下空間と民間の敷地内の空間を一体的に活用し、地下通路のネットワークを形成する必要性を指摘している。一方で、それぞれの施設や管理者が異なる中で、地下空間を一続きのネットワークとして繋ぎ、運営することには課題もあるという。

実際に歩いて、その課題が少し理解できた。

東京駅周辺では、パシフィックセンチュリープレイス丸の内からグラントウキョウ サウスタワー、八重洲地下街、グラントウキョウ ノースタワーと、カタカナが並ぶ多くの施設を通り抜ける。地下を歩いているはずなのに、気づけば別のビルに入っていて、目的地へ向かっているというより、迷路を探検しているような気分になる。

詳しく知らない場所を歩くことが好きな筆者にとって、この複雑さはむしろ胸が躍った。しかし、急いでいる人にとっては、そうもいかないだろう。どれだけ長く地下通路を歩けるかより、早く目的地へ到着できることの方が大切なはずだ。

地下通路は、ただ長く繋がればいいわけではない。階段を使わずに進めるか。車いすやベビーカー、大きな荷物があっても通れるか。地上に出たいとき、出口をすぐ見つけられるか。誰にとっても迷わず移動できるかというバリアフリーの視点が欠かせない。

また、将来的に温暖化が進み、夏の暑さがさらに厳しくなれば、外を長時間歩くよりも空調の効いた地下を移動する人が増える可能性が高い。地下で仕事をしたり、買い物をしたり、居を構えたりすることが今より一般的になるかもしれない。地上100階建ての建物がある東京で、いつか地下100階まで都市が広がっていたら面白い。

ただし、地下には大雨や洪水への弱さがある。暑さや雨を避けられる快適さと、防災の備えをどう両立するか。将来の地下空間を考える上で、避けられない問題だと思う。

(2026年9月2日 筆者撮影)

4キロを歩いてみると、立ち止まって案内板を確認する人、足早に通り過ぎる人、電話をかけながら歩く人、地下街の店に入っていく人など、さまざまな人が行き交っていた。どこから来て、どこへ向かうのか。電話の向こうに誰がいるのか。

地上では別々に見える銀座、有楽町、東京、大手町も、地下では一つの道で繋がっている。知らない者同士が同じ道を歩き、すれ違い、またそれぞれの目的地へ向かっていく。

たまには、目的地までの最短ルートを探すのではなく、少し遠回りをしてみたい。まだ知らない東京が、足元のどこかに広がっていている気がする。

 

 

参考記事:

・2011年4月27日付 日経新聞電子版 「日本一長い地下通路、歩いてみたら…」

https://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2600L_W1A420C1000000/?msockid=3f4d1060f19f6828272c0771f09a69ec

・2014年2月28日付 日経新聞電子版 「日本一の地下通路、大手町から階段なしで歩けるのは」

https://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2500H_V20C14A2000000/?msockid=3f4d1060f19f6828272c0771f09a69ec

 

参考資料:

国土交通省 「スマホによる、屋内でのナビを可能にする、「位置情報サービス」の実証実験を日本最大の地下空間で実施」

https://www.mlit.go.jp/common/001117279.pdf

(最終閲覧はすべて2026年9月14日)