「別班」の正体と文民統制の危機

『VIVANT』で注目される「別班」
日曜劇場『VIVANT』の大ヒットを機に、陸上自衛隊の秘密情報部隊「別班」の存在が広く知られるようになりました。劇中では「表の公安」に対し、「法を度外視してでも国を守る裏の精鋭部隊」として描かれ、ダークヒーロー的な活躍に物語は盛り上がりを見せています。筆者も視聴していて、「本当に別班は存在するのか」「存在したとして、海外で劇中のようなスパイ行為をしていいのだろうか」という疑問にとらわれることがあります。本記事は長く別班取材をしてきた記者の著作などから「別班」の正体に近づいていきます。

 現在も政府は公式見解のなかで、別班は「過去も現在も存在しない」と完全に否定しています。しかし、共同通信社の石井暁記者はその別班に関するスクープ記事を放ちます。石井氏は筆者の通う立命館大学産業社会学部の特任教授も務め、2023年には大学で「別班」をテーマにした講演会も開かれました。2013年11月28日付で共同通信が配信した「陸自 独断で海外情報活動 首相、防衛相に知らせず 文民統制を逸脱 自衛官が身分偽装」という記事では、別班の存在を自衛隊の最高指揮監督権を持つ内閣総理大臣や防衛大臣にすら知らされず、海外で情報収集を行っていると指摘しています。

 石井氏は米国のウォーターゲート事件で真実を告発した「ディープスロート」のように、内部の「キーパーソン」から証言を積み重ねて近づいたと自著で語っています。記事では別班の海外展開も明確に裏付けられています。別班員を海外へ送り出す際、一時的に自衛隊の籍を外して他省庁の職員の身分を与えたり、ダミーの民間会社を設立して民間人に偽装させたりして現地で人的情報収集(ヒューミント)に携わっているといいます。さらに石井氏は、別班の真の「表」の顔は公安ではなく、2004年に創設された陸自の精鋭「特殊作戦群」であり、彼らの情報収集能力を補うために表の特殊作戦群と裏の別班を一体化させる構想すらあったと指摘します。

「影の組織」の原点
 こうした影の組織の起源は、冷戦期にあります。1954(昭和29)年、米軍再編に伴う情報力低下を懸念した米極東軍のハル大将が吉田茂首相に工作員育成を要請し、日米間で「軍事情報スペシャリスト訓練(MIST)」が発足しました。これが別班の源流とされます。元別班長(当時はムサシ機関長)の平城弘通氏は自著で、班長に必要な素質として「情報に骨を埋める覚悟」「名誉欲のないこと」「金銭に恬淡精錬であること」、そして「秘密の保全に生命を賭けること」を挙げています。

問われるべき「文民統制」の原則
 石井氏のスクープ直後の2013年12月6日、特定秘密保護法が成立しました。政府の説明では、同法は安全保障上特に秘匿が必要な情報を保護するため、特定秘密の指定や解除、漏えい防止の適性評価や罰則などを定めた制度です。内閣官房のホームページでは半年ごとに指定件数が公表されており、今年上半期の集計でも「電波情報、画像情報その他情報収集手段を用いて収集した情報」が109件、「外国の政府等から提供された情報」が26件など、計58項目891件の特定秘密が指定されています。

 戦前の軍部の暴走による国家の危機を経験した反省から、現代の自衛隊は国民に選ばれた政治指導者が統制する「文民統制(シビリアン・コントロール)」を原則としています。冒頭で抱いた「仮に存在したとして、海外で劇中のようなスパイ行為をしてよいのか」という疑問も、活動そのものの是非以上に、それが「国民の代表である政治の統制下にあるか」という点にあります。国家の安全を守るための情報保全は、長年議論が分かれる論点です。だからこそ、秘密保全のあり方にどのような立場をとるにせよ、いかなる活動も「誰がその力を統制しているのか」を明確にするという民主主義の根本原則を揺るがしてはなりません。

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