現在、大学で「臨床社会学」という講義を受けています。児童虐待やマイノリティなどの社会問題について、現場の視点から解決策を考える授業です。12月2日には、ポジティブ・アクションについて学びました。
厚生労働省の「ポジティブ・アクションのための提言」では、ポジティブ・アクションを「固定的な性別による役割分担意識や過去の経緯から、男女労働者の間に事実上生じている差があるとき、それを解消しようと、企業が行う自主的かつ積極的な取り組みのこと」と定義しています。これは、性別に基づく差別的な意識や歴史的背景を踏まえ、それを払拭するために能力や成果とは別の採用枠などを設ける取り組みを意味します。
最近では、理工系大学で導入されている「女子枠入試」がこれに当てはまるでしょう。朝日新聞のインタビューで河合塾教育研究開発本部の近藤治・主席研究員は、「女子枠は推薦型や総合型選抜のケースが多く、その中では公平性は担保されていると考えています」と述べています。また、地域医療を担う人材が不足しているように、理工系分野でも女性が活躍しにくい現状があると指摘しました。
旧七帝大と東京科学大の工学系学部などでつくる一般社団法人「八大学工学系連合会」によると、加盟大学の工学系学部における女子学生比率は13%にとどまると読売新聞は報じています。これは経済協力開発機構(OECD)諸国の中で最低水準だそうです。一部の大学では女子枠を導入するなど改革が進むものの、「女性は理系に向いていない」といった偏見や先入観が根強いことが課題として挙げられています。
一方で、「女子枠」が男子に対する逆差別になり得るとの指摘もあります。朝日新聞が25年10月30日から11月20日まで行った世論調査では、「大学の理工系の学部に「女子枠」を設けることについて、自分の意見と近いものはどれですか?」という設問に対し、「入試の公平性が失われる」と答えた回答者が最も多く、「男性を逆に差別することになる」がこれに続きました。競争が激しい入試において、能力以外の性別という属性で利益を得られる制度に抵抗を感じる人が多いことがわかります。
臨床社会学の授業で、先生は性別だけを基準として適用すれば反発が起こるのではないかと指摘しました。文部科学省の「令和4年度学校基本統計」によれば、女子の4年制大学進学率は東京都は76%、京都府が69%となっています。一方、岩手、秋田、福島、山口、佐賀、大分、宮崎、鹿児島の各県では40%以下です。このように地域差が大きい中で、女子という属性だけでポジティブ・アクションを一律に適用することには疑問が残るのではないでしょうか。
もちろん、全国的に依然として女性の大学進学率が男性より低い傾向があるのは事実です。ましてや、理工系大学への進学率はもっと低いのです。したがって、理工系大学における「女子枠」は多様性のために必要でしょう。しかし、東京都や京都府のように男女差が小さい地域もあるため、「女性」だけで括って全国一律の配分枠を決めると、地方の女子には十分な機会が与えられない可能性もあります。性別だけでなく、経済状況や居住地域といった他の要因も考慮して枠を設ける工夫が必要なのではないでしょうか。
参考文献
厚生労働省、2002年4月19日、「ポジティブ・アクションのための提言」https://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/04/h0419-3.html(最終閲覧日2025年12月8日).
文部科学省、2022年12月21日、『令和4年度学校基本統計』.
参考記事
朝日新聞、2025年12月7日、「(フォーラム)「女子枠」と向き合う:2 成長」.
読売新聞オンライン、2025年4月15日、「女性の理工系・博士人材育成」https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/20250414-OYT8T50202/(最終閲覧日2025年12月10日).