突撃!隣の国の学生さん!

 今月15日に日豪EPA(*1)が結ばれ、より貿易や交流が活発化される予感のある日本とオーストラリア。海外の学生は、日本の学生よりも政治に関心があるとよく聞きます。今回は、オーストラリア人で、中国語と、北東アジアの政治を勉強しているニックさんに日豪関係について聞いてみました。オーストラリアの学生は何を考えているのでしょうか。(聞き手・訳 上野莉佳子)

 

話を聞いた人 ニック・ホートンさん オーストラリア国立大学アジア太平洋学部4年生で中国語と北東アジアの政治について勉強しています。筆者とは、留学先の同じ学部で勉強していました。

話を聞いた人
ニック・ホートンさん
オーストラリア国立大学4年生。筆者とは、留学先の同じ学部で勉強していました。

まずはニックさんについて教えてください。

——私は、現在オーストラリア国立大学の4年生で、アジア太平洋学部に所属しています。また、中国語を勉強していたことから、中国語のディベートに参加しました。またアジア太平洋学部の学生代表を務めていました。

 

日本では昨年12月に選挙が行われ、自公両党で300議席以上を獲得しました。これについてどう思いますか?

——あまり驚いてはいません。戦後から自由民主党がほぼ継続して政権を担っているため、他の政権が与党になることは難しいと思います。安倍政権は、経済改革と世界の中での日本の地位回復を目指していますが、これは相当な文化的変革がなければ達成は難しいでしょう。特に私が注目しているのは、首相が掲げる女性の活用です。安倍首相や保守派は女性の活用についてただ容認するだけではなく、しっかりと制度改革をする必要があると思います。そうすることにより、日本の女性がキャリア形成と家庭の両立をできると思います。

また、安倍政権の最近の国家主義的な言動も懸念しています。東アジア地域の政治と経済の安定だけでは中韓の感情を押さえられることはできません。歴史の理解が必要なのだと思います。もちろん、2015年の日本は1915年や1945年の日本とは全く別ではありますが、やはり異なる政治体制や歴史認識の違いがあるため、難しい問題だと思います。

 

オーストラリアではどのように報道されていましたか?

——突然の出来事であったため、あまり大きくは報道されていませんでした。オーストラリアでは、同時期にシドニー市街地での人質立てこもり事件があったこともあり、国際問題よりも国内問題(テロ問題)への関心の方が強かったように思います。

 

日本では投票率が低い傾向にあります。昨年12月の衆院選の投票率は戦後最低の52.66%を記録しました。

オーストラリアの学生は政治に強い関心を持っているイメージがあります。普段の日常会話でも政治についての話題もあがることもあると思いますが。

——オーストラリアはとても政治に関心を持っている社会だと思います。オーストラリアでは、義務投票制(*2)ですし、またメディアでも政治について多く取り上げられます。その甲斐があってか、若い世代も政治的に関心を持つのは当たり前だと思います。私たちにとって、成人とは投票権を持つこととも象徴されています。

 

オーストラリアの学生が関心を持っている論点はなんですか。

——一般的に4つの論点が挙げられると思います。1つ目は、大学教育です。アボット政権が大学の授業料をあげるという政策を掲げており、多くの学生が影響を受けます。2つ目は、気候変動です。学生からは、オーストラリア政府の取り組みは十分ではないという強い認識があります。3つ目は、就職難や生活費です。若者の失業率が深刻化しており、学士号を取っても、就職できないのではないか、という不安が学生たちの中にはあります。4つ目は、難民への対応です。オーストラリアには、多くの難民や亡命希望者がインドネシアや他国からボートで漂流してきます。オーストラリア政府によって彼らは大体パプア・ニューギニアなどで一時待機させられ、しかも十分な情報や待遇を受けられずにいます。(*3)オーストラリアの若者は、政府がより思いやりのある対応をすることを願っていますが、政治的な問題があります。

 

日豪関係は今後どうなると思いますか。

——両政府は日豪関係を良くするために、努力をしていると思います。EPAや新コロンボ計画(*4)などにより、人的交流や経済交流が活発化しました。日本は、今後も戦略的、貿易、政治的に良きパートナーとなるでしょう。ただ、日韓関係や日中関係の悪化はオーストラリアを気まずい状況下におきます。なぜなら、オーストラリアは北東アジア地域の全ての国との強い関係を維持することを目指しているからです。とはいうものの、日豪関係は今後悪くなることはないでしょう。

 

将来、大学を卒業後、どのような進路をお考えですか。

——まだ決定はしていませんが、法律・公共政策か、またはジャーナリズムか迷っている状況です。卒業までにまだ何年かあるので、考え中です。ただ、アジア太平洋地域で働きたいという気持ちは確定しています。

 

*  1 オーストラリアと日本は今年1月15日に日豪経済連携の協定に関する共同声明を発行した。これにより、豪州との貿易・投資を含む経済関係の強化、二国間の緊密化につながる。

*  2 アボット首相は「ストップ・ザ・ボート」という公約をあげ、船でオーストラリアを目指す難民を、国境警備員と海軍を使って追い返している。また、追い返された人々は、元の国に送り返されるか、太平洋の島にある収容施設に送られることになり、特に収容施設での生活環境が問題となっている。

*  3 オーストラリアでは18歳以上になると選挙人名簿に登録され、投票を怠ると最高50豪ドルの罰金を受ける。そのため、オーストラリアの選挙での投票率は90%を超えている。

*  4 オーストラリア政府による重点的な取り組みで、インド太平洋地域への理解を深めることを目的として、オーストラリア人学生の留学やインターンシップへ支援をする制度。

【参考】

外務省ホームページ、ハフィントンポスト

 

インタビューを終えて

オーストラリアの学生の政治や国際関係についての関心の高さに驚かされました。「義務選挙制を導入すべきか」、「日本のメディアの報道の仕方はどうあるべきか」、「日本の学生は何に関心があるのか」、「日豪関係がこれからどうなるのか」、この4点について日本の学生はどう思っているのか、とても気になりました。