【特集】五輪×お酒=「スポーツバー」の今

愛知県では、7月12日から8月11日まで「愛知県厳重警戒措置」が実施されています。県民に「不要不急の行動の自粛」を求めるだけでなく、飲食店には午後9時までに店を閉めるよう営業時間短縮の要請がされており、従った店舗には協力金が交付されます。

そんななか、オリンピック日本代表のサッカー観戦のためにパブリックビューイングを企画し、営業している3軒の「スポーツバー」を訪れました。「オリンピック」「飲食店」——コロナ禍で悪者にされがちな二つの要素を併せ持つスポーツバーは、逆境に立たされているのか。実態をリポートします。

1軒目に訪れたのは午後7時ごろ。その日は8時半から日本代表のサッカーの試合を控えていました。10テーブル以上配置されている店内にいたのは、若い女性の3人グループだけ。大画面スクリーンで五輪のバスケットボール3X3の中継を映していましたが、そちらへの興味はない様子。ドリンクを注文しながら店長さんに何時まで開けるのか聞くと、「遅くまで開けたいが、お客さんの入り具合によっては9時に閉めさせてもらう。まだわからないが、サッカーの問い合わせも多かったので、それが終わるまでやりたいとは思っている」とのことでした。

もちろん店員はマスクを着用し、アルコールを吹きかけながらテーブルを拭いています。通りに面した部分には壁がなく、外からも中の様子がよく見えるつくりになっていました。開放的な空間のため、換気に関しては問題なさそうです。店の天井はきらきらとしたモールや色とりどりの旗で装飾されていました。かつてテレビで見た、ワールドカップでのスポーツバーの盛り上がりを思い出します。

次々とオリンピック競技の中継が映される大画面では選手の様子が細部までよく見えます。空間に響く大音量スピーカーからは、男子体操「ゆか」で選手がどんと着地する音、実況アナウンサーや解説者の息遣い、会場の興奮がよく伝わってきます。もしここで、多くの人と息をのんで彼らの演技を見守ったら。感動を共有できたら。想像すると、お客さんの少ない今の状況が虚しく思えてきました。

筆者が入店してからしばらくして最初の女性グループは退店。8時までに、男性2人グループが2組、会社帰りの男性が1人と計5人のお客さんが来店しましたが、いずれも店員さんから言われて初めて、サッカー日本代表の試合があることを知ったようでした。店長さんは、コロナ前ならばきっともっと多くの人が行きかっていたであろう通りに向かって「よろしかったら一杯どうですか」と呼び掛けてもいましたが、サッカーの試合が始まる頃には、「やはり今日は9時に閉めることにしました、申し訳ないです」と一つずつのテーブルに頭を下げて回っていました。

2軒目に向かったスポーツバーは多くの人で埋まっていました。スクリーンのある店内席は30人ほどの事前予約でいっぱいのため、当日来店のお客さんはお酒を片手に店外席に設置された小型のテレビを見つめます。店員さんに協力金について伺うと、「厳密には飲食店ではなく小売店。食事は店内で作らずイートインの形をとっているので協力金をもらえない」と教えてくれました。外からの観察では、1軒目よりは客数が多いものの、コロナ前のスポーツバーのイメージほど密集して盛り上がる雰囲気ではありませんでした。

最後に向かった店も、多少の空席はありましたが、賑わっていました。来店してすぐ日本が点を決めたようで、歓声とともにお客さんたちの拳が上がり、友人同士でハイタッチが起こります。誰もがスクリーンに体を向けていました。日本代表のユニフォームを着た人、今日のために予約をしていた人もちらほら。マスクを耳に掛けたままお酒を飲む人も多くいました。スクリーンを見ていなくとも、歓声を聞いていればボールがゴール付近へと動いたタイミングがわかるくらい、店内は一丸となって応援していました。

ただマスターによると、コロナ前のワールドカップだったら、もっともっと人がたくさん入って物凄い盛り上がりだったそう。肩を組んで歌ったり、店員さんも鳴り物を響かせて店内を駆け巡ったりするなど、お客さんの近くに行くこともあったのだとか。普段は朝まで営業しているけど、日付が変わる前には店を閉めている、と少し残念そうに話してくれました。

手に汗握って、全力で闘うアスリートを応援する。同じ空間で友人や見ず知らずの人と感動を分かち合う。一緒に応援している人がいることを肌で感じる。それを楽しみに、仕事を頑張る。オリンピックというイベントを、スポーツバーで観るからこそ得られる楽しみはやはりあって、それに代わるものはないのだと思います。

 

私たちは、いつまで我慢を続けなければならないのでしょうか。

 

飲食店の中には、「うちはもう限界。営業します」とメディアなどにも宣言したところがあります。けれど、そんな店ばかりではない。今回訪れたスポーツバーも、経営をしている方がどんな思いなのか、さらにお話を聞きたいと申し出ると「普段は協力させていただいているが、デリケートな時期。今はすべてお断りしている。本当に申し訳ない」との返事でした。批判があるのは重々承知。だから、いくら経営が苦しくても、営業を続けることにどんな熱い思いがあったとしても、声高に「うちは営業していますよ」と客寄せするわけにもいかず、ひっそりと開けているお店は多いことでしょう。

「命を守る」という言葉は、今も強い力を持って、自粛を求める理由として使用されます。確かに、飲食店の利用が感染拡大に全く影響がないわけではないでしょう。ただ、いつまでも国民の行動の制限ばかりに頼る姿勢には疑問を抱きます。初めて緊急事態宣言を出してから1年4か月。コロナに対応すべき医療資源の偏りは未だに解消されず、テレビニュースでは「医療の逼迫」の現場が何度も映されているのに、呼び掛けられるのは「心を一つに乗り越えよう」。

本当に、医療の拡充やその支援へ十分に力が入れられているのでしょうか。闇雲にリスクをゼロにしようとしていないでしょうか。『日本の医療の不都合な真実』の著者である森田洋之医師は「飲食店などの規制は犠牲が大きく効果は乏しい」「医療を病院の自由競争に任せず、警察や消防と同じ国の安全保障として位置づけ政治が管理するべき」「政治が医師という専門家の主張のみに耳を傾け、社会全体を見て判断をしていない」などと厳しく指摘しています。

いつまで、「心を一つに」してコロナという敵だけに向き合っていなければならないのでしょうか。そろそろ、一人一人のやりたいこと、大事にしたいことへ目を向けさせてほしい。政府は、これだけの時間があっても医療現場の管理がなお難しいのであれば、せめてそれを率直に説明してほしい。マスコミは「大変だ」と繰り返すだけでなく、冷静な視点で本当に効果的な問題解決策を探ってほしい。そう強く思います。

 

 

参考資料:

東洋経済 ONLINE   コロナ「医療逼迫」に「国民が我慢せよ」は筋違い

「ゼロコロナ」志向こそが人と社会を壊していく