つい数日前、ある方から「今度会うとき何を食べたいですか」と尋ねられた。寄宿舎で野菜中心の食生活を送る筆者。せっかくの外食ということで悩みに悩んだ。中華料理、韓国料理、いや日本料理か…頭の中に次々と候補が現れては消えていく。そしてふと気づいた。10月に入って1度も魚を食べていない。
ということで本日のあらたにすは水産業について。24日の日本経済新聞夕刊に興味深い話題があった。「サクラエビ秋漁の解禁」だ。九州出身の筆者にはこれといって愛着のない食べ物の一つだが、これを機に勉強しようと調べた。
ご存知の方も多いだろうが、日本でサクラエビが獲れるのは静岡のみ。静岡市のホームページによれば、富士山の恵みを受け、富士川、大井川、安倍川から清流が流れ込む駿河湾の構造が生育に適しているらしい。また漁場は静岡の他では台湾にしかなく、生のまま食べられるのは日本のみということだった。
調べていて一番驚いたのは、漁獲方法だ。いわゆる「夜曳き(よびき)」という方法で漁は夜に行われ、そのまま港へ水揚げされる。これはサクラエビが「成群性」と「日周移動性」をもった深海生物のためで、昼間は水深 200メートルから300 メートルに分布し、日没前にエサを求めて密度を高めながら水深20メートルから30メートルまで上昇することを利用している。
これらの知識を踏まえながら、記事を読んでみる。すると記事についている写真が午前中に撮られたものだと気付く。朝日新聞静岡県版に掲載されたものにも、撮影時間は「午前5時42分」だと記載されている。名前にサクラと入っている通り、画像に映るエビたちは淡いピンク色をしており水揚げされたばかりのその姿はとてもきれいだ。真っ暗闇のなか、漁獲された瞬間はさぞ美しいことだろう。
しかし読み進めていくとそんな美しい話ばかりではない。秋漁は2年ぶり。昨年は記録的な不漁で中止されていた。今年も体長3.5センチ超の個体が一定割合に達しない海域では漁をしないなどの制限を設けた上での操業だという。「秋漁」と書いていることにも注目したい。昔は一年中漁を行っていたのを資源の保護のため、春漁(3月下旬-6月上旬)と秋漁(10月下旬-12月下旬)に分け禁漁期間を設置。解禁したからと言って安堵できるわけではないのだ。
記事を読み終え、消費者の一人として考えた。記事だけでは禁漁期間を設けざるを得なかった漁業者の苦しさまで理解することは出来なかった。記事の中身を否定したいわけではなく、消費者が自分の問題として関心を持つことが重要だと感じた。
不漁の話題はサクラエビだけでない。ここ1か月の記事をさかのぼっただけで、サンマ、サケ、スルメイカなど深刻な状況が続く魚種は多くある。生育環境、乱獲、海流変化…原因は魚種によってさまざまだが、一つだけはっきりしているのは私たちの食生活に影響を及ぼすということだ。もっと言うと、私たちだけでなく将来世代にも、だ。
さて今月食卓に並んだ魚料理を思い出してほしい。その中に上記にあてはまる魚はいなかっただろうか…?
参考記事:
10月24日付日本経済新聞夕刊4版社会面「サクラエビ秋漁2年ぶりに解禁」
10月24日付朝日新聞静岡県版「秋漁2年ぶり解禁、サクラエビ初競」
参考資料: