「出身どこなん?」と聞かれると筆者はいつも悩んでしまう。中学まで住んだ淡路島と答えるべきか高校時代以降を過ごした神戸と答えるべきか。筆者としては、15年近く過ごしてきた淡路島にこそ我が「アイデンティティ」があると自負しており、神戸の「シティーボーイ」としての自覚はまったく持ち合わせていない。そのため、本来であれば「淡路島出身地です!」と即答すべきであろう。しかし、上品で洗練されたイメージのある「神戸ブランド」は筆者に対して、「淡路島?神戸ナンバーやで。神戸っ子って言うたらええねん。オシャレやし、ウケええで」と毎度毎度、悪魔の囁きをしてくる。
現在、筆者の出身地である神戸の玄関口・三宮駅周辺は急速に再開発が進んでいる。西日本では最大級のバスターミナルを含む高層複合ビルの建設計画や市庁舎の建て替え、ウォーターフロント地域での水族館開業などあげていけばきりがない。
官民一体となり「改造計画」が進められている三宮であるが、「ディープ神戸」にも目を向けて欲しい。これは筆者の造語だが、元町高架下商店街、通称モトコー以北さらには兵庫区湊川周辺を指している。この地域は昭和特有の混沌さ、むさ苦しさ、人間の生命力を感じさせ、洗練されたハイカラな街・神戸とは対をなしている。それ故に、鬼子的存在であるこれらの周縁地域を尊敬の念を込めて「ディープ神戸」と呼んでいる。
とくに、闇市に起源を持つモトコーは、古本屋、骨董品屋、飲食店などが軒を連ねており、訪れた者を昭和へとタイムスリップさせる。歌謡曲のレコード、ウルトラマンのソフビ、ブラウン管テレビ、『日本資本主義発達史講座』――。乱雑に陳列されている全ての商品はあたかも自分が昭和にいるような錯覚を与える。さらに、モトコーは神戸駅から元町駅に進んで行くにつれて、ディープな空間から洗練された空間へと変化していき、神戸の戦後史をそのまま体現化しているという点で非常に興味深い。
また、「東の浅草、西の新開地」とまで称された新開地はかつての歓楽街としての名残を残しつつ再開発が進められたため、「昭和臭さ」と「新しさ」が共存している魅力的な地域となっている。メインストリートは整然としているのに、一歩路地に入るとバラック小屋の如きホルモン屋が出現するなど、ホルモンと同じく噛めば噛むほどいい味が出るのである。
現在、三宮駅周辺の再開発が進んでいる。すると「ディープ神戸」はどうなるのであろうか。三宮と同じく「ハイカラ路線」へとシフトチェンジするのか。それとも対抗するように「ディープ路線」を歩み続けるのか。筆者を育ててくれた神戸の思い出に耽りながら街の未来を考えた次第である。
参考記事:
24日付 日本経済新聞朝刊 30面(特集)「神戸経済特集 三宮 都市の進化化」
産経ニュース「消える?闇市ルーツの〝日本一長い高架下商店街〟モトコー JR西の耐震工事で存続危機」
https://www.google.co.jp/amp/s/www.sankei.com/west/amp/160908/wst1609080008-a.html